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『キングオブコント2023』感想~しれっと発動する逆説の魔力~

今年は出だしのカゲヤマの裸のインパクト一発で場が大いに荒れた印象があって、何よりも審査員がみなその影響をまともに喰らってしまっていたように見えた。

その一撃のおかげで審査基準がほぼ過激さのみという麻痺状態に陥ってしまい、9組目のサルゴリラが圧倒的な高得点を叩き出すまでは、およそ誤差の範囲と言っていいほどに同じような採点ばかりが並ぶことになった。そうなればもはや、採点がさほど意味をなさなくなってしまう。

実際のところ、すべてのネタに全員が90点台をつけたというのは、それだけ今年のレベルが高いというわけではなく、一組目の衝撃に全員が高得点をつけすぎたことによる弊害だろう。

にもかかわらず、そうして荒れた場もなんのその、トップのサルゴリラだけは抜きん出た高得点を二本揃えての完全優勝。スポーツでもどこの世界でもそうだが、一位だけがその日の流れや審査基準などお構いなしに、別次元のレベルですべてをねじ伏せるというケースは少なくない。

結局のところ、そうやって飛び抜けた一組さえ確実に摑まえることができれば、二位以下の点数がどんなに曖昧な団子状態であろうと特に問題はないのかもしれない。だが審査される芸人の立場になってみると、さすがにもう少し差をハッキリさせてもらわないと現在地が見えにくく、今後の指針も立てづらいという気持ちもあるのではないか。

観ているほうとしても、もう少しレースを楽しませてほしいという気はする。まるでゆとり教育の象徴として有名な、あの運動会で全員が手をつないでゴールする徒競走のような横並びの状態は、実力主義の夢を見せるお笑いの世界にもっともふさわしくない態度であるようにも思われる。少なくとも、賞レースという形式を採用している以上は。もちろん点差をつけるのが難しいのも、事実ではあると思うのだが。

それでは以下、登場順に感想を。


【カゲヤマ】
一本目は料亭的な場所で、取り引き先に謝罪をするためにやってきた上司と部下。後輩の尻拭いと称して上司が襖越しに繰り出したネイキッド土下座で、今大会は幕を開けた。

たしかにその視覚的なインパクトは大きかったが、個人的にはシンプルな繰り返しに飽きがきてしまった。裸芸というのも、ドリフ的というか前時代的というか。

松本人志が指摘していたように、かつてロッチが優勝しかけたときの試着室ネタを思わせる。しかしあれはわざとらしく脱いで見せているとはいえ、場所が試着室という、服を脱いでしかるべき状況であるところに、ある種の納得感とリアリティが感じられた。

それに比べるとこちらは、土下座と裸のつながりが薄いように思えた。「普通の土下座をするよりも、裸で土下座をしたほうが許してもらえる可能性が高いはず」という発想に、いまいち乗れなかった。それよりはもっと明確に、相手にメリットを提示したほうが成功率は高いのではとか、そういうところでどうにも引っかかってしまった。

すなわち裸が本当にベストな手段である状況ならば面白いが、それ以外にもっと効果的な方法がありそうな場面であるのに、見た目のインパクトで裸を選んでいるという作者側の都合が、どうしても透けて見えてしまうような。

二本目もやはり上司と部下だが、今度は二人の役割を入れ換えたうえで、上司のデスクに「温かいもの」が置かれるという不思議な設定。個人的にはこちらのほうが設定の狂気性は勝っているように思えた。他とかぶらない設定を持ってくるそのスタンスには頼もしさを感じる。


ニッポンの社長
一本目は友人兼恋敵との喧嘩というベタな青春ドラマに、武器を持ち込むことですべてを狂わせるというパロディ的構図。

かと思いきや、片方がどんなに卑怯な武器(刃物、拳銃、ライフル、手榴弾刺叉、地雷……)を投入しても青春ドラマがまったく狂わないという、逆の逆を行っているのが凄い。そして最終的には、正々堂々素手で闘っているほうが、「お前も卑怯な手を使ってでも勝ちに来いよ」という台詞を吐くという逆説的展開。

こうやってしれっとベタな設定を逆手に取ってくる感じは、彼らの真骨頂であると思う。

二本目はなにかしらの摘出手術。身体から何が出てくるかの大喜利かと思いきや、それどころではなくとにかく量が出てくる出てくる。掃除機コードのエンドマークの登場を待っての「出しすぎちゃう?」には完全にやられた。最後の目玉オチも強烈で、いつもながら遠慮なくやり切ってくるスタンスに痺れる。


【や団】
劇団設定に、灰皿を投げるタイプの鬼演出家。そこで灰皿をクローズアップするところまでは想定内と言っていいが、そこからの展開が予想外。ニッポンの社長に続いて、ここにもまた逆説がある。

通常であれば、持つ武器が強力になると、持つ人も当然そのぶん強くなる。しかしここでは、武器の灰皿が軽量のステンレスから重厚なガラスへと如実にパワーアップすると、それを持つ演出家は安易にその武器を投げられなくなってしまう。灰皿の攻撃力と演出家の暴力性は、むしろ反比例する形になっていく。

これはあえて大袈裟に考えてみると、「核兵器を持ったとしても、実際のところ核兵器はそう簡単には使えない」といった壮大な問題を想起させもする。もちろん本人らにそこまで考えさせる意図はないのかもしれないが、つまりそれほどまでに普遍的な真実がここにはあるということだ。

しかしそんなことは考えずとも充分に面白い。


蛙亭
電話での別れ話に落ち込む女と、その目前で転倒することにより崩れてしまった寿司をひたすらに悔いる男。

しかし男の寿司への強い思い入れが、いまいち伝わってこなかった。二人の問題が特に関連してくるわけでもなく、長いこと積極的に口論するほどの関係性になっていないとも感じた。正直なところ、こういう場合だとお互いに無視して帰るだけだろうな、と思ってしまった。

二人が同じ問題を共有するようになると、蛙亭らしい狂気性がもっと前面に出てくるような気がするし、過去にはそういうネタも観たことがあるような気がする。


ジグザグジギー
元芸人市長の記者会見、という設定に特別な飛躍はないが、それがまさかの大喜利方式。

その根底には『IPPONグランプリ』感、松本チェアマン感がずっとあって、どうでもいい大喜利あるあるが、シチュエーションを記者会見に変えただけでいちいち面白く映る。

通常、パロディをやるならば遠い二つの要素を掛けあわせたくなるものだが、ここでは大喜利と記者会見という、見た目的には比較的近い二場面を混ぜあわせたのが効果的だった。

後半の『笑点』方面への展開は蛇足だったようにも思うが、よくこんなに近い二要素を掛けあわせて面白くなると判断したものだと、思わず感心してしまった。


【ゼンモンキー】
神社で親友と彼女を取りあう二人。そこに現れた恋愛成就を願う第三者

その三者が絡んでいく展開はスムーズだが、そこからの飛躍がなく小さくまとまっている印象。結果、小ネタを羅列したような感触が残った。

若い人のほうが、むしろ真面目で小さくまとまりがちというのはどこの世界でも意外とよくある話で、これから先どうはみ出していくのかが見たい。


【隣人】
チンパンジーに落語を教える落語家という無茶な設定に期待するが、その後の展開はそこまで奇妙なものでもなく、徐々に心を通わせていく、というベタなストーリーの範疇に落ち着いてしまった印象。


ファイヤーサンダー
サッカー日本代表メンバー発表を待つ選手。と思いきや、それが選手ではなく選手のモノマネ芸人であることで、モノマネ芸人ならではの悲哀が滲み出る。このひとひねりが効いていた。

ネタのクオリティは高かったが、冒頭からのインパクト重視の流れを変えるまでには至らず。「なんで日本代表より層厚いねん」という、モノマネ芸人界へのリアルな叫びが響き渡った。


サルゴリラ
一本目はディレクターにネタ見せをするマジシャン。一見さほどでもない地味な設定にも思えるが、いざやってみるとマジック以前に、このマジシャンのややこしさがどんどん明らかになっていく仕掛け。

マジックには明快な方法論があるように我々は勝手に思っているが、受け手のことを何も考えていない人がやると、その凄さはとんでもなく伝わりづらくなってしまうという発見。

当たり前のルールをあっさり無視している人を目撃することによって、それまで見えていなかったルールが炙り出されて見えてくるという逆説がここにもある。

二本目は、最後の試合に負けてしまった野球部の選手と監督の会話。ありがちな設定かと思いきや、この監督がなんでもかんでも魚に喩えて話をするという謎のスキルを発動。

こちらも一本目と同じく、もっと普通にわかりやすく整理できるものを、つい本人の余計な工夫によりややこしくしてしまうという、人間の持つおかしみと哀しみが同時に襲いかかってくる。

いずれも人間という存在の持つ面倒くささと、だからこその愛おしさを見事に表現していて、二本とも断トツ一位という納得の完全優勝


ラブレターズ
彼女の実家へ挨拶に伺うという緊張の場面。にもかかわらず、向こうの母親はアパートで謎にシベリアンハスキーを放し飼い。

設定の道具立てからして、犬がどう絡んでくるのかと気になって観ていたが、大半が犬の鳴き声に対して壁を叩いて来るお隣へ叩き返すことの繰り返しで、この叩くことの反復がグルーヴというよりは単調さにつながってしまった感があった。


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