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『キングオブコント2022』感想~高次元の「動き」と「演技力」に負けない「言葉」の力~

コントはどうしても漫才と比較される宿命にあるが、この二つの決定的な違いといえば、やはりコントにおいては「動き」と「演技力」という見た目の比率が増えるという点にあるかと思う。

キングオブコント』も、今年は冒頭のクロコップがかなりの好感触を得た時点で、「動きの笑い」を重視する大会になるかと思われた。

とはいえ、ことはそう単純にはいかない。昨今のコントにおいて、たしかに「動き」と「演技力」の重要度は増してきているように見える。だがむしろ、それらのレベルが上がってきているからこそ、それにふさわしいクオリティの「言葉」もまた、間違いなく必要とされているに違いない。

インパクトのある「動き」や上質な「演技」を観せられたとき、我々視聴者は、それらに負けず正面から太刀打ちできるリアルな「言葉」を待ち受けている。

ビスケットブラザーズの優勝は、いまのコントにはそういった「アクション」と「言葉」の高次元における両立が不可欠であるのだということを、改めて証明してみせた形になったように思う。

以下、登場順に感想を。


【クロコップ】
ほとんど動きの笑いだけで、立ち上がりの観客を見事につかんだ。

「あっち向いてホイ」をカードバトル化させた設定で、いかにも少年漫画的な発想。結果として、少年漫画がいかに常時無茶なことをやっているか、そしてあとづけ要素が多いかということの批評にもなっている。

「動きの笑い」に関してはかなりのレベルにまで達していたように思うが、上位陣と比べるとワードセンスの上積みがなかった。もちろん、そこをあえて排除したことにはある種の覚悟も感じるが。


ネルソンズ
結婚式の二次会における、いわゆる映画『卒業』パターンの横恋慕シチュエーション。

話が進んでいくごとに、徐々に新郎にとって不利な状況が見えてくるという巧みな進行。

しかしいまこのベタな設定をやるからには、最後にもっと大きく何かを崩してみる必要があったかもしれない。


かが屋
冒頭、かなり過剰な女優演技に違和感を感じていたところへ、実はドM男とのデートだったという設定が突如見えてきて腑に落ちる。そして一気に引き込まれる。

途中、ドS的言動とパワハラとの境界線を探るあたりも示唆に富んでいて、細かい表現にまで意識がゆき届いている脚本。

そういえば去年優勝した空気階段の一本目もSM設定だったが、あれはむしろ中身というよりは見た目上の設定と言うべきか。

隙はないが爆発力が欲しくなってくるのも事実で、もっとあり得ないレベルにまでエスカレートしたり、二人の立場が逆転したりするところまでつい期待してしまった。もちろん五分ネタでそこまでたどり着くのは、至難の業だとは思うが。


【いぬ】
パーソナルトレーニングという状況下で、男女二人が同じ淫夢を観るというかなりピンポイントな設定。

結果、手を変え品を変え二人のキスが繰り返されることになるが、さすがに単調で後半は飽きが来てしまう。

そうなるとキスより先まで行かなければならなくなるが、審査員の東京03・飯塚も言っていたように、すでにこの時点で表現としてもう限界という向きも少なくないだろう。あるいは別方向への展開というのが、あり得たのかどうか。


ロングコートダディ
料理対決番組という、様々なことが起こりそうな設定をわざわざ用意したにもかかわらず、「とにかくコック帽の高さがセットに引っかかる」というただひとつの問題だけで最後まで貫き通すその姿勢が、くだらなくも潔い。

「吸ったやつどこ行ってます?」「『全然』って万能じゃないですよ」「目的を理解してないですよね?」等々、ツッコミの「尖ってないのに刺さる」絶妙なワードセンスが秀逸で、ひと言たりとも聴き逃せなかった。

それと引き換えなのかどうなのか、アクション的にはかなり地味に見えてしまったのも事実。あとは後半、帽子の高さがどうにかしていいほうに転がるとか、そういう逆転がどこかにあると、もうひと山作れたかもしれない。


【や団】
一本目は三人で楽しくバーベキュー。かと思いきや、なぜか死体遺棄という過酷な状況に。

そこにドッキリを絡める構成が巧みで、中盤以降は誰が一番狂っているのかわからなくなっていく展開も効いてくる。三人編成のメリットを最大限に生かした設定の作りかたが上手く、二人ではできないことを見事にやっている。

ツッコミの演技が終始大きすぎるのが古臭く感じられてちょっと気になったが、その点に関しては二本目のほうでは気にならなかった。

その二本目は、天気予報をはずした気象予報士らに出会った全身ずぶ濡れの男。

こちらもとにかくシチュエーションが巧みで、ポピュラーなあるあるネタを一本のドラマに仕立ててしまうそのキャラクター設定と狙いすました配置には、たしかな実力を感じる。

「濡れて開き直った人間の可動域ナメないでくださいよ」という言葉のインパクトが強かったぶん、個人的にはこの二本目のほうがより好みではあったが、二本とも綺麗にクオリティを揃えてきたという印象。


【コットン】
ラフレクラン時代から、コントの面白さには定評があった彼ら。

一本目は「浮気証拠バスター」という謎の職業設定。チョコプラやロバートが得意とする架空職業モノでありながら、絶妙なディテールを連続的に繰り出すことによってリアリティを次々に補強していく。

そして中盤以降も、電話対応までしてくれたり、男になって直接対決まで引き受けてくれたりと、とにかく展開が豊富で飽きさせない。観る側の気持ちや呼吸を、本当によくわかって作られたネタであると感じた。

個人的にはほぼ完璧な内容だと感じたので、このネタに95点以下はあり得ないと思ったが……。

二本目のほうは、よくあるお見合い設定だがやはりディテールの表現力が効いていた。

そこへただひとつタバコという要素を追加するだけで、物語を最後まで展開させ切ってしまうのは流石。

個人的には一本目のほうが良かったが、間違いのないその実力を証明する大会になったと思う。


ビスケットブラザーズ
冒頭で触れたとおり、「動き」「演技力」「言葉」の三位一体攻撃が見事にヒットしての完全優勝。ほかの芸人らとは、別の因果律を生きているこの感じを「世界観」と呼ぶのかもしれない。

一本目は山でいきなり野犬に襲われるという、そもそもがいまどきのあるあるとはかけ離れた設定。

そこへセーラー服にブリーフ姿の救世主が現れ、あれよあれよという間に話が高速展開してゆく。

だがその展開のスピードも、単に勢いでぶっちぎる安易な戦術というわけではない。あらゆる要素が有機的に機能しているうえ、その合間に挟まってくるワードセンスも終始研ぎ澄まされているため、随所で確実に効いてくる。

狂った世界観でありながらも、その価値観の中においては緻密に作られている世界。

二本目はありがちなバイト仲間の女子トークに見えるが、友人の豹変によりすべてが破壊される。

二重人格という設定はよくあるが、これは二重人格というわけでもなく、しかし何かが狂っているのは確か。

展開の速さと多さが際立っており、それに伴って情報量も圧倒的に多い。それでも観客が迷子にならないのは、やはり要所要所で繰り出される的確な「言葉」が、物語をひとつの方向へしっかりと導いているからだろう。


ニッポンの社長
エヴァ』的なロボットアニメのパロディ設定。

いつもながらの繰り返しを軸に、最小の設定で最大の効果を上げてくるミニマムなスタンスに迷いはないが、それゆえに積み上げ感があまりなく、小さくまとまってしまった感も。


【最高の人間】
牧歌的なテーマパークの新入社員教育かと思いきや、それはほぼ洗脳の、あるいはそれを超えた世界――。

物語のスケールが大きく、飽きさせない展開力が際立っていたが、その大きさと引き換えにやや全体に荒さが目立っていたのは、逃れられぬ構造上の宿命なのか。

「逃げて!」のたったひと言で、それまでの空気を一変させる展開は圧巻だった。できればもっと長尺で観たかった作品。


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