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『キングオブコント2014』感想

今年は新顔が多く、明らかに審査員席のほうが豪華に見えたが、全体のレベルとしては例年と比べても遜色なかったと思う。

 

むしろ違いが大きかったのは、今年から大幅にリニューアルされた審査方法。1対1対戦のノックアウト方式になったことで大量の死票が生まれる結果となり、見た目の面白味は増したものの、全体の序列がわかりにくくなった。

 

まあそんなシステムの話をするのは野暮な話で、「優勝する人はそういう細かなルール変更などぶっちぎって優勝するもんだよ」というのも確かだし、実際のところ実力者のシソンヌがちゃんと優勝しているので特に問題はないのかもしれない。

 

こういったお笑いコンテストに関しては、なぜだか毎回そういう結果オーライなところがあって、審査員のラインナップや審査方法に疑問を感じても、最終結果はそれなりに納得のゆくものであることが多い。もちろん、他に優勝してもおかしくなかったと思える選択肢が二つくらい浮かぶことがあるが、完全な的はずれに終わることは少ない。

 

とはいえそれは結果に限った話で、やはり審査方法というのは、大会のプロセスには少なからず影響する。今回改めて感じたのは、1対1方式になると「部分点をもらいにくくなる」ということで、つまりは明らかに勝利を印象づける明確な「決定力」が必要になってくる。それはコンスタントな「ヒット」よりも1発の「ホームラン」、細かな「言葉」のセンスよりも大胆な「動き」による笑いが有効になってくるということで、少なくとも1戦目に関しては明確にそういう傾向があったように思えた。

 

ひとつのネタを評価するのと、ふたつのネタを比較するというのは、どうやら行為として結構違う。本来であれば、対戦したふたつのネタをそれぞれに評価したのち、その結果を冷静に比較して優劣をつければ良いのだが、人は普通わざわざそのような手順を踏まない。それぞれのネタ評価という部分をすっ飛ばして、いきなり比較に入る。なのでそれぞれに対する評価が心の中で定まらぬまま、どうしても印象論で勝敗を決することになる。

 

お笑いコンテストの場合、そもそもがスポーツと違って特に採点基準もなく、いつだって印象論でしかないのだが、対戦形式になるとよりインパクトが求められる、という傾向はあるように思う。無論、受験と違って傾向と対策で勝てるような世界ではないけれど。

 

2戦目の勝ち残り方式に関しては、これはもう薄れゆく記憶との勝負という感じで、審査するほうも相当に難しかったのではないか。最初に高得点を挙げたネタの面白さの記憶が、時を経て脳内で美化され伝説化するのか、あるいは時とともに醒めていって、「そうでもなかったんじゃないか」と思いはじめるのか。観ているこちらとしてもそのふたつの感覚が交互に押し寄せてくる感じで、最後はもうどちらが勝ってもいいんじゃないかという気持ちになっていた。

 

それでは以下、登場順にネタの感想を。

 

【シソンヌ】

喜怒哀楽が入り交じる、文学性の高い世界観。

1本目のおじさんキャラは味わい深いがやや地味で、二人の会話のやりとりを長時間観たいと思わせるが、4分でケリをつけるには決め手に欠ける印象だった。

2本目のタクシーコントはそこに感情を動かす、というか弄ぶようなドラマ性と動きが加わり、グッと引き込まれた。

2本目のクオリティをもって、順当な優勝であると思う。

 

【巨匠】

対戦相手のシソンヌと「パチンコおじさん」という点でキャラクターがかぶっていたが、こちらのほうがその駄目さ加減が明快だった。

その明快さはベタさでもある。

 

ラバーガール

価値観のズレ。噛み合わない会話。これぞラバーガールという2本。

その不条理な世界観の揺るぎなさは圧倒的で、とにかく会話というものの不毛さを思い知らされる。

個人的には優勝してもおかしくないと思ったが、安定感がありすぎたのかもしれない。

 

【リンゴスター】

こちらはラバーガールとは対照的に、会話が常時噛み合いすぎている。特にツッコミのフレージングの丁寧さが説明過多につながっている場面が多かった。ツッコミのテンションが言葉の強度をはるかに越えていることもあって、そういった温度感のズレが、観る側に入り込みづらい印象を与えていたように思う。

 

【バンビーノ】

動きとリズム。

1本目は踊りの「ココリコ遠藤感」が気になったが、言葉を排除したストイックなスタイルはインパクトがあった。

2本目は後半30秒で間延びした感じで、その前に終わっていたらもっと印象は良かったかもしれない。

基本的に繰り返しが多いので、そこに観客が飽きるタイミングを見極めるのが難しそう。

良くも悪くも若さを感じた。

 

さらば青春の光

「下ネタが苦手なおっさん」という、いかにもそこらへんにいそうでありながら、その実妖精レベルにあり得ないキャラ設定が秀逸。

徐々におっさんの異常性が明かされていくその手順と展開も絶妙で、全面的にクオリティの高さを感じさせた。

あとは審査員の下ネタ耐性次第。

 

ラブレターズ

プロ野球選手と病気の少年」というベタな設定を反転させることで、両者ともに邪悪なキャラクターへと変貌させ、さらに最後にもう一度反転させて思いがけぬ美談に着地させるという美しい構図。

新たな審査方法に最も割を食った印象。

2本目も観たかった。

 

【犬の心】

「マジックの種明かしをしたがらない人」という入口から入ったはずが、いつの間にやら性癖の話になり恋愛感情のようなものが立ち現れ、どういうわけかパンツ一丁になっているという異様に思い切った展開の1本目。中盤以降の大胆な展開のうねりは、グルーヴと言ってもいいくらいに観客を巻き込んでいった。

それに比べると2本目はさほど展開もなく、小粒な印象。

 

【チョコレートプラネット】

1本目のポテチ開封業者といい、2本目のカラオケ当て字といい、とにかく設定にパンチ力がある。

特に1本目は小道具使いも巧みで、濃密に4分間を使い切った感触。

2本目は陣内智則的な映像ネタだが、やはり他と大きくスタイルが異なるので余韻が長く残った。

個人的には1本目のほうが好きだが、2本トータルで考えると彼らが優勝でも良かったと思う。

 

【アキナ】

「ボール取れへん」という言いかた押し一辺倒かと思いきや、後半になって立場が逆転するという展開。

その繰り返しフレーズにこだわる姿勢にジャルジャルに近いものを感じたが、どこかおとなしい印象が残った。