今期はいつものようにゆったり構えているうちに、何本かの作品はすでにはじまってしまっているという不覚。このフライング気味のスタートは、このあと待ち受けるW杯シフトなのか、なんなのか。
しかしいまだ前クールのドラマ消化に忙しく、今期の作品はまだ一話も観られていない状態でこれを書いている。
ちなみに前クールのドラマで言うと、『六本木クラス』『純愛ディソナンス』『初恋の悪魔』『魔法のリノベ』あたりが特に面白かった。
中でも『純愛ディソナンス』は、個人的にあまり期待していなかったぶんだけ驚きが大きかった。失礼な言いかたになるかもしれないが、掘り出し物とはまさにこういう作品のことを言うのだろう。
それでは、今期のドラマを迎え撃つ心の準備を曜日順に。『科捜研の女』や『相棒』といった個人的に観る習慣のないシリーズドラマ、及びあまり期待できそうにない深夜ドラマに関してはあえて触れていないが、特に後者に関しては、まったく当たりがないとも言い切れないとは思いつつ。
【月曜日】
◆『PICU 小児集中治療室』(フジテレビ/月曜21時/吉沢亮主演/10月10日スタート)
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医療ドラマに関しては、よほどブラックでねじれた設定が裏に見えてきたりしない限り、いまさらなかなか観る気にならないというのが本音。明らかに飽和状態。
『監察医 朝顔』のスタッフが手がけているとのことで、そちらを観ていた人向け、という感じであるようにも見える。もちろん続編でもなんでもないようだが、同じスタッフで同じ方向性のドラマを作ろうとしてしまうところに、現在の保守的なフジテレビの姿勢が見えるような。
どうせ同じスタッフでやるなら、これまでとはあえて違う方向にチャレンジしようというような、冒険心と気概が欲しい。
◆『エルピス―希望、あるいは災い―』(フジテレビ/月曜22時/長澤まさみ主演/10月24日スタート)
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テレビ局の人間が、冤罪疑惑の真相を追うという設定は、犯罪解決のプロである刑事や探偵モノというベタなジャンルに、新たな角度を持ち込もうといったところか。
ドラマ設定においては、たとえば刑事に対して、探偵はより自由かつリスキーな捜査が可能といったメリットがある。ではそれらと比較して、テレビサイドからのアプローチにどういった長所短所が見えてくるのか。
そんな「ならでは」の部分が明確に生きてくれば面白くなりそうで、「これなら刑事や探偵にまかせたほうが良いのでは」となれば興醒めとなりそうだが、果たしてどこで違いを生み出してくるのだろうか。
【火曜日】
◆『君の花になる』(TBS/火曜22時/本田翼主演/10月18日スタート)
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「7人組ボーイズグループの寮母になる本田翼」とのことだが、まずこの人数をドラマ内で捌ききれる気がしないのは、単なる杞憂だろうか。
もちろん、最近はやたらに人数の多いアイドルグループが多いという現状を踏まえた設定なのだとは思うが、似たような年代の似たような方向性のキャラクターが多数並ぶというのは、ドラマとしてはやはり難しいものがあるだろう。
まずは多くのアイドルグループが抱えている問題と同じく、グループ内でキャラクターの差別化ができるかどうかという部分に、このドラマ自体の命運も左右されることになるような気が。
【水曜日】
◆『ファーストペンギン!』(日本テレビ/水曜22時/奈緒主演/10月5日スタート)
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「シングルマザーの漁師」という、ひねりが利いているぶんだけあまり日常感のない(少なくとも多くの都市生活者には)設定に、「実話ベース」であることによってリアリティを担保するような構造。
主人公が出会う漁師が堤真一と来れば、かつての名作『やまとなでしこ』を思い出すが、あれは漁師ではなく魚屋の設定だった。
「都会に疲れた人々が憧れがちな、田舎暮らしの理想と現実」というテーマがなんとなく見えるが、その手の実話を『ザ・ノンフィクション』で頻繁に目撃している身としては、それらに予測のつかなさ及びリアリティで勝てるのか、というのがひとつの基準になってくる。
なかなか難しい勝負になりそうだ。
◆『親愛なる僕へ殺意をこめて』(フジテレビ/水曜22時/山田涼介主演/10月5日スタート)
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漫画原作の「二重人格サスペンス」とのことだが、キャスト表を見てみると、川栄李奈、門脇麦、尾上松也、早乙女太一、高嶋政宏、桜井ユキ、佐野史郎、遠藤憲一と、むしろ脇のほうに二重人格をやりそうなクセ者役者がズラリ。
もうこのメンツを見ただけで、ひと筋縄ではいかない展開が期待できる。
あとはこの枠特有の、ある種の安っぽさを上手く味方につけられれば(正直、ホームページのつくりからして……)。
【木曜日】
◆『ザ・トラベルナース』(テレビ朝日/木曜21時/岡田将生主演/10月20日スタート)
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男性看護師という設定には、いよいよそれがドラマになる時代に来たかという感があるが、冷静に考えればありがちな医療ドラマになりそうにも見える。
それを『ドクターX』の脚本家が手がけるとなれば、さながら『ナースX』とでも呼びたくなるところ。だがそれが単なる冗談でもなさそうな証拠に、ホームページの人物紹介欄を見てみれば、なるほど「さすらいの看護師」やら「謎のスーパーナース」やらといったそれっぽい文言が躍っている。
とはいえ医療ドラマは、個人的にあまり期待できない分野ではある。
◆『silent』(フジテレビ/木曜22時/川口春奈主演/10月6日スタート)
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「音のない世界」という設定からは、今年はじめのTBSドラマ『ファイトソング』を思い出す。あれは素晴らしい作品だった。
あちらは一発屋ミュージシャンや空手、さらには児童養護施設といった諸要素が随所で効いていたが、こちらは公式HPに目を通した限り、そういった物語のフックがあまり見あたらないように感じる。
そういう意味では、かなり正面切ったラブストーリーのようだが、前クールの『純愛ディソナンス』のように、思い切った展開がその先に待ち受けているのか、どうか。
【金曜日】
◆『クロサギ』(TBS/金曜22時/平野紫耀主演/10月21日スタート)
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2006年に、山下智久主演ですでにドラマ化されている漫画原作を、改めて完全版として仕切り直すとのこと。
せっかくのこのクオリティの高い枠で、焼き直しに頼るのその後ろ向きなスタンスはどうかと少し思いつつ、かつて以上に巧妙な詐欺が横行する現代にこそ、この作品をやる必然性というものがあるのかもしれない。
「詐欺師を騙す詐欺師=クロサギ」という「毒をもって毒を制す」方式は、勧善懲悪にリアリティを感じられなくなっている現在のほうが、むしろリアルに感じられる設定でもある。
◆『最初はパー』(テレビ朝日/金曜23時15分/ジェシー主演/10月28日スタート)
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タイトルの安直さに加えて、企画・原作・脚本に秋元康、総合監修に佐久間宣行という並びに、そこはかとない地雷臭が。
秋元康絡みという意味では、『真犯人フラグ』は楽しめたのだが、彼が脚本まで深く入り込むとあまり良い印象がないというのが正直なところ。
一方で佐久間宣行に関しても、純粋なお笑い番組の制作やラジオパーソナリティーとしてはかなり信頼しているが、ドラマに関しては特に際立った印象がない。そのうえ「総合監修」という、むしろ秋元康がやりそうな作品との距離の取りかたに、どこか及び腰な姿勢が見えるような。
ジェシー×市川猿之助というミスマッチなキャスティングは、ちょっと気になると言えば気になるが、そのあたりの「狙ってる感」もいかにも秋元康的で……。
【土曜日】
◆『祈りのカルテ 研修医の謎解き観察記録』(日本テレビ/土曜22時/玉森裕太主演/10月8日スタート)
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またしても医療ドラマということですっかり辟易気味だが、そうでありながらも「ハートウォーミング・ミステリー」を謳っているところが、他の医療モノとなにかしらの違いを生み出してくれるのだろうか。
個人的にはミステリーのほうが好きなので、むしろそちらの比重をどんどん増やしていってほしいところだが、そうなると医者設定の旨味が失われるというジレンマ。
◆『ボーイフレンド降臨!』(テレビ朝日/金曜23時00分/髙橋海人主演/10月15日スタート)
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今期は特に正面切ってのラブコメ作が稀少なため、三角関係を標榜するこのドラマが、もっともど真ん中のラブコメということになるのかもしれない。
主役の髙橋海人には役者として注目しているが、その恋愛対象が桜井ユキと田中みな実というのは、ちょっと癖の強すぎる人選であるような。
◆『ジャパニーズスタイル』(テレビ朝日/金曜23時30分/仲野太賀主演/10月22日スタート)
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シチュエーションコメディ云々以前に、近年『コントが始まる』や『俺の話は長い』といった秀逸なコメディ作品を手がけてきた脚本家・金子茂樹への注目度が個人的には非常に高い。
そのうえで仲野太賀主演、さらには市川実日子や柄本明までいるとなれば、さらに期待度を上げざるを得ない。
あとは30分ノンストップの一発勝負という形式が、吉と出るか凶と出るか。今期もっとも意欲的なドラマと言えるだろう。
【日曜日】
◆『アトムの童』(TBS/日曜21時/山﨑賢人主演/10月16日スタート)
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ゲーム業界を舞台にしたドラマ作品というのは、意外とあまりなかったのかもしれない。そういう意味で、新たな領域を開拓しようという前向きな意欲を感じさせる。
そこに本格的な企業ドラマを得意とする日曜劇場が真正面から取り組むというのは、とても興味深い流れであるように思う。軽くなりがちなエンタメ業界設定を扱うにあたって、重厚な雰囲気を出せる日曜劇場は、あるいはもっとも適した枠であるのかもしれない。
◆『霊媒探偵・城塚翡翠』(日本テレビ/日曜22時30分/清原果耶主演/10月16日スタート)
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霊媒師×推理作家という異色のバディによるミステリー作。
フィーリング×ロジックという意味で、互いに補い合う関係になっているようだが、やはりオカルト要素がそこに入ってくると、途端に安っぽくなる印象は否めない。
清原果耶と小芝風花という勢いを感じさせるキャスティングには、注目せざるを得ないが……。
【今期の個人的注目作】
◎『ジャパニーズスタイル』
名作『コントが始まる』の脚本家、及び演技派を揃えた出演者への信頼。
○『アトムの童』
新鮮な設定と歴史ある枠の新旧合体効果に期待。
△『親愛なる僕へ殺意をこめて』
スリリングな設定と脇役ラインナップの妙。