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『THE SECOND~漫才トーナメント~2023』感想

M-1』とは大きく異なる4点が、複合的に作用した結果どう出るのかがなんとも興味深い大会だった。その目立った違いとは以下の4点。

①結成16年以上。(現行の『M-1』は結成15年以内)
②制限時間6分。(『M-1』は4分)
③審査員は観客、及び3段階による採点方式。
④トーナメントによる対戦形式。結果、決勝まで残るとネタを3本披露することに。

まず①の経験値に関しては、やはりベテランならではの安定感が感じられ、全体に大きなはずれは見あたらなかった。逆に言えば採点が難しく、③の審査員コメントによる補足が期待できないため、特に低得点に関する納得感は乏しくなる。

ある意味ではそこで差を生まれやすくするために②の長尺設定が導入されたようにも思われるが、これに関しては意外な気づきもあった。時間が長ければ全体の構成や展開で勝負する漫才が有利になるかと思いきや、必ずしもそうはならなかった。

最後に優勝を決めたギャロップの漫才こそ、たしかに展開美を感じさせるものであったが、少なくとも決勝の対戦相手となったマシンガンズはそれとは正反対の無軌道なスタイルであったし、同じく構成力を見せつけたスピードワゴンは質が高かったにもかかわらず、一本目であっさり敗退してしまった。

そのギャロップのネタにしても、引っ張って引っ張って最後に回収するというシンプルな形式で、昨今の『M-1』で見られるような「プラスもうひと展開」が用意されているほどに入り組んだ形式ではない。

これは小説の世界でもよく言われることだが、「短篇のほうが構成が重要になる」ということなのかもしれない。これは逆説的に響くかもしれないが、長篇であるほどむしろいま目の前で起こっていることに目が向く傾向はあるように思う。それは長くなれば全体を俯瞰することが難しくなるからでもあるだろうし、前のほうでやっていたことを観ているほうが忘れてしまうというのもあるだろう。

とはいえ、これがいっそ30分漫才になれば、やはりいくつかの明確な展開は必要になってくるだろうし、伏線回収による快感もより強く感じられるようになる気もする。つまり短いからこう、長いのはこう、という一般的な傾向があるわけではなく、たとえば6分と7分でも最適とされる形は異なるし、それは各人が持っているスタイルとの相性にもよる、ということになるだろうか。

そしてこの傾向は言い換えるならば、「アベレージの高さよりも、瞬間最大風速の勝負になる」ということになるのかもしれない。ここには③の採点方式も絡んでくるし、④の対戦形式というスタイルも作用してくる。

まず、長尺になるとネタ全体の平均値で評価するのが難しくなる。これは構成と同じく、観る側にとって全体を丸ごと記憶しておくのが難しくなるからで、どうしても目立った数ヵ所の印象で判断しがちになるのを避けられない。

続いて、3段階における採点方式もそこに拍車をかける。今回は《3点=とても面白かった/2点=面白かった/1点=面白くなかった》という3段階評価となっていたが、何か突出した勢いのようなものを感じない限り、3点はつけにくいのではないか。

あるいはこれが2段階であれば、大爆笑はなくとも平均的に面白ければ2点満点をつけるだろうし、逆に5段階であれば、瞬間的な大爆笑だけでなく全体の平均値が高くないと5点満点はつけにくい気がする。これはあくまでも僕個人の感覚に過ぎないのかもしれないが、意外と2点と3点のあいだで悩む場面は多いように感じた。

そしてさらには、④の対戦形式もここに作用してくる。対戦した2組のどちらかに逐一軍配を上げなければならないとなれば、やはりそこには決め手というものが必要になってくる。それは全体のクオリティというよりも、記憶に残るフレーズや動き、もっと言えば大笑いした自分の感触といった一箇所の判断に頼りがちになるなのではないか。

つまり全体の平均的なクオリティよりも、瞬間最大風速の大きいほうが勝つ。溜めて溜めて最後に大きな一撃を放ったギャロップの漫才は、そういう意味でこの大会を象徴するものであったように思う。もちろん彼らの漫才には、全体的な質の高さも、さらには渾身の一撃へと持っていく構成力までもが充分に伴っていたわけだが。

とはいえまだ初回ではあるので、こういった傾向が続くのかどうかはわからないし、また別の正解だっていくらでもあるのかもしれない。正直観ているほうにとっても4時間強は明らかに長すぎたし、もし続くとなれば来年以降いろいろと改善される箇所もあるだろう。

しかし個人的には、同じ漫才の大会ではあっても、たった数ヵ所を変更するだけでこんなふうに変わるものかと、かなり興味深い大会であるように感じた。来年以降も継続されることを期待しつつ。


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