2023年春ドラマ傾向と対策
【月曜日】
◆『風間公親-教場0-』(フジテレビ/月曜21時/木村拓哉主演/4月10日スタート)
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過去に二回スペシャルドラマとして放送された木村拓哉主演作品が、満を持しての連続ドラマ化。
《あの最恐の教官はいかにして誕生したのか?》という公式HPの文言からすると、冷酷無比で強烈な存在感を放つ警察学校の教官・風間公親の過去を溯って描く、いわば「エピソード0」的な作品になるのだろうか。事前にパイロット版のあるドラマの連続化としては、わりと珍しい形式であるかもしれない。
言われてみれば風間ほどに底が知れぬキャラクターも珍しく、ここへ来てそこにフォーカスしたシリーズを放つというのは、まさにここからが本番であり、ここにこそ主人公及び作品の本質が隠されていると思わせる。
そもそも「何をやってもキムタク」と言われがちであった昨今において、木村拓哉とスタッフが意欲的に新境地を開拓してみせたおそらくは渾身の作であり、脚本も『踊る大捜査線』シリーズを手掛けた君塚良一。
よほどの失策がない限り、そのクオリティに間違いはないと思われる。
◆『合理的にあり得ない~探偵・上水流涼子の解明~』(カンテレ・フジテレビ/月曜22時/天海祐希主演/4月17日スタート)
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高IQを持つ天才バディとの探偵モノ――というのはいかにもありがちでフックの乏しい設定だが、こういう作品はえてして解法の鮮やかさよりも、バディを組む二人の空気感が魅力的であるかどうかにかかっている。
タイトルからすると前者の謎解き要素を重視しているように見えるが、果たして二人の人間的魅力が前面に出てくるかどうか。
【火曜日】
◆『unknown』(テレビ朝日/火曜21時/高畑充希・田中圭主演/4月18日スタート)
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公式HPにある《2人の深い愛を描くラブストーリーに、予測不能な連続殺人事件が絡み合う壮大な≪ラブ・サスペンス≫》というフレーズを信じるならば、近年の名作『最愛』を思い浮かべるが、あそこまでのクオリティを期待して良いものかどうか。
『おっさんずラブ』の制作陣が手掛けているというのも、ある種の期待にはつながるにしても、方向性的にはプラスなのかマイナスなのかわりと未知数であるような。
個人的にはダブル主演のキャスティングとシリアスな物語設定があまり噛みあっていないような気がするが、当たれば深いジャンルではあるので、どのような雰囲気が作り出されるのかに注目している。
◆『王様に捧ぐ薬指』(TBS/火曜22時/橋本環奈主演/4月18日スタート)
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古典的な少女漫画的シンデレラストーリーで、全体として重みと深味と新鮮味に欠ける第一印象。
『花より男子』の夢よもう一度という狙いはわかるが、それにしてもどこで違いを生み出そうとしているのかが見えてこない。
【水曜日】
◆『それってパクリじゃないですか?』(日本テレビ/水曜22時/芳根京子/4月12日スタート)
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知的財産権をテーマに持ってくるというニッチな設定だが、そういえば『石子と羽男』にもそういう話があったような気がするし、弁護士ドラマだと一話くらいはそういう問題が取り上げられるイメージ。
本作はそこに的を絞ったうえで、弁護士ではなく弁理士が主人公というところに新しさを感じるか狭さを感じるか。
設定の狭さゆえに、後半飽きてくるような気配はそこはかとなくある。
◆『わたしのお嫁くん』(フジテレビ/水曜22時/波瑠/4月12日スタート)
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こちらは『私の家政夫ナギサさん』の歳下夫版?――とすぐに思い浮かぶが、考えてみればこちらのほうが形としてはまだ普通であるのかもしれない。むしろあれだけ歳上の家政夫のほうが珍しいわけで、それがあのドラマの新鮮さにつながっていたのだと思う。
それどころかすでに『家政夫のミタゾノ』に観慣れているファンとしては、これくらいだとさすがにインパクト不足ではある。もちろん勝負どころは全然違うところにあって、『逃げるは恥だが役に立つ』の逆転バージョンを狙っていたりするのだろうが……(自分が発案者だったら、企画書にそう書くかもしれない)。
【木曜日】
◆『ケイジとケンジ、時々ハンジ。』(テレビ朝日/木曜22時/桐谷健太/4月13日スタート)
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今回は公式HPからの引用フレーズが多くて恐縮だが、そこに制作者サイドの思いが表れていることが多いのも事実なのでまた引用してみる。
こちらのイントロダクションの冒頭に書かれているのは、《刑事ドラマのその先、もっと先へ!!》という力強い一行。逆に言えば、刑事ドラマというジャンルがいかに定番の壁にぶち当たっているのかが透けて見える。なんとかそのジャンルを押し広げたいという使命感は、あらゆるドラマ制作者が感じているはず。
そこに本作は『HERO』の福田靖脚本により、検事視点を導入するという新たな配合実験に取りかかっているように見える。そしてさらに判事(裁判官)を加えた三つ巴の様相。
似て非なる三者の立場がどのようなドラマを生み出すのか興味深いが、それはあくまでも構図的な楽しみであって、要は中身の人間ドラマ次第と言ってしまえば身も蓋もないのだが。
◆『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ/木曜22時/奈緒主演/4月13日スタート)
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このタイトルを見て真っ先に、あの東出昌大の怪演が話題を呼んだドラマ『あなたのことはそれほど』を思い出したが、どうやらその続編というわけではないらしい。局も原作者も違うし、似ているのは題名の響きだけのようだ。
木曜10時のフジテレビといえば『昼顔』枠だよなぁ、といつも思うのだが、今回はまさにそのプロデューサーと演出のタッグ。
となるとどうしても比較されることになってしまいそうだが、方向性に迷いは感じられない。
【金曜日】
◆『弁護士ソドム』(テレビ東京/金曜20時/福士蒼汰/4月28日スタート)
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リニューアルされたテレ東夜8時枠の第一弾。福士蒼汰演じる主人公は「加害者専門の悪徳弁護士」とのことで、『クロサギ』のように善悪のねじれた設定だが、それにしても題名が無闇に怖い。
テレ東ならではの冒険心が、深夜だけでなくゴールデン帯のドラマにも発揮されるのをそろそろ観たい。
◆『ペンディングトレイン ―8時23分、明日 君と』(TBS/金曜22時/山田裕貴/4月21日スタート)
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「タイムスリップ×サバイバル」という、少し前の流行を掛けあわせたようなフィクション強めの設定。あらすじを見る限り、昔で言うところの『漂流教室』のような。
連続ドラマの限られた予算内で、どのような未来を見せてくれるのか。設定の大きさゆえに期するところは大きいが、安っぽくなる懸念もある。
キャストは山田裕貴、赤楚衛二といったいま旬の俳優陣に、抑えの杉本哲太というバランスの取れた布陣。
ありがちな設定でないわけではないが、それでも他のドラマたちに比べれば頭ひとつ抜けたスケール感。その冒険心にとりあえず期待。
◆『波よ聞いてくれ』(テレビ朝日/金曜23時15分/小芝風花主演/4月21日スタート)
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個人的にラジオが好きなところへ、原作者・沙村広明の描く現代劇のユーモア、そこに小芝風花の演技力が掛け算されるとなれば、面白くならないはずがないように思える。
この作品に関してはむしろ、原作や脚本というよりも、演出の加減が肝になってくるような予感が。深夜ドラマならではのニッチなノリを強調するのか、本格的に作り込むのか。
深夜はわりとノリが上滑りするパターンも多いので、どこまで原作の空気感を生かせるかに注目したい。
【土曜日】
◆『Dr.チョコレート』(日本テレビ/土曜22時/坂口健太郎主演/4月22日スタート)
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またブラックジャック系の天才医者ものか……と少々辟易しているところへ、「秋元康企画・原案」の文字を見てさらに辟易。
とはいえ、彼が脚本まで手掛ける作品に良い印象こそないものの、原案止まりだと面白い場合もあるので、正直蓋を開けてみなければわからない。
この手の設定では、昨年同枠で放送された『逃亡医F』が意外に面白かったので、これ以上辟易することなくフラットな姿勢で一話目に臨みたい。
【日曜日】
◆『ラストマン-全盲の捜査官-』(TBS/日曜21時/福山雅治主演/4月23日スタート)
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この作品も、刑事ドラマの枠をどう広げるかという小さな試みを感じさせる設定。
久々の福山雅治に何を期待して良いのかはわからないが、大泉洋がなんとかしてくれそうな気はする。
ここ最近の日曜劇場はあまりコンスタントな出来ではないので、ここらへんでそのブランド力を改めて感じさせてほしいところだが、ありがちな刑事ドラマの枠を超えられるのかどうか。
◆『日曜の夜ぐらいは...』(朝日放送・テレビ朝日/日曜22時/清野菜名主演/4月30日スタート)
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何よりも、安定の岡田惠和脚本。関西のABCテレビ制作による新枠とのことで、気合いも充分入っているに違いない。おそらくは、フジテレビ系のカンテレ制作ドラマがそれなりに高く評価されていることを受けての一手だろう。
やや遅れて月末にはじまるが、地に足の着いた設定で繰り広げられる岡田惠和作品にはずれはないだろう。ぜひ台詞の隅々まで人間ドラマを味わいたい。
◆『だが、情熱はある』(日本テレビ/日曜22時30分/髙橋海人・森本慎太郎主演/4月9日スタート)
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今期はこの作品が、一番当たりはずれが大きい予感がする。オードリーの若林正恭と、南海キャンディーズの山里亮太という実在の芸人を描くドラマ。
お笑い芸人のドラマといえば、同じく日テレの『コントが始まる』は素晴らしかったが、そこに実話という要素が乗っかるといったいどうなるのか。そこからはリアリティが出るのか臭みが出るのか。
それはあまり大袈裟に描くわけにもいかないという足枷にもなるだろうし、逆に実際にあったことだから少々嘘臭くても実話だと言い切って描ける、という自由もあるだろう。
あるいはこの四月から朝の顔となった山里の新番組の評判も、作品の印象を自動的に変えるかもしれない。つまり観る側の心持ちも作品の要素となってくる可能性があるわけで、シンプルにドラマ自体を評価するのが難しい作品になりそうな気はしている。
むろんそんなこんなをすべて凌駕する、圧倒的な面白さがあれば話は別だ。
【今期の個人的注目作】
◎『風間公親-教場0-』
鉄板にもほどがあるが、正直全方位的に隙がない。すでにキャラクターも圧倒的に強い。
○『日曜の夜ぐらいは...』
新設枠ゆえの不安はあるが、脚本家・岡田惠和への信頼感。
△『あなたがしてくれなくても』
『昼顔』よ再び。
△『ペンディングトレイン ―8時23分、明日 君と』
謎が謎を呼ぶ壮大な展開にすっかり巻き込んでほしい。