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2026年秋ドラマ傾向と対策(10月スタート作プレビュー)

農作物に限らず、ドラマにおいても毎年秋は豊作であり勝負どころだとよく言われる。だがそのプレッシャーが局及び制作陣を数字上の確実性へと向かわせるのか、かつての名作の続編や既出ヒット作のリメイク等に頼るパターンと、国際的なコラボ体制を敷いて周囲からガチガチに固めるという二方面への展開が顕著になっている。

ちなみに前クールのイチオシだった『Tシャツが乾くまで』に関しては、個人的には前半の盛り上げかたが素晴らしかっただけに、後半はその無茶ぶりを上手く回収できず竜頭蛇尾に終わった印象。そもそもまともに回収し得るレベルの伏線ではなかったからこそ、あれだけ中盤まで盛り上げることができたと見るべきかもしれない。ああ見えてロケットスタート型というか。

そうなると今後の生方脚本に関しては、観るほうはその点やや警戒して構える必要があるかもしれない。しかしここまで話題になったとなると、初回に大風呂敷を広げるパターンは今後増えそうではあるが。

なお今回も、基本的にはプライム帯の作品を中心に取り上げ、深夜枠は特に気になったものだけに絞って触れる形に。特に深夜帯に関しては、さすがに粗製濫造がいきすぎていてもはや無限増殖の勢い。

それでは以下、曜日順に。


【月曜日】
◆『救命病棟24時』(フジテレビ/月曜21:00/江口洋介・松嶋菜々子主演/10月12日スタート)
www.fujitv.co.jp

もはや前世紀末となる1999年開始の医療ドラマ、13年ぶりの第6シリーズ。月9枠での放送というのも恋愛至上主義のかつては考えられなかったことだが、それを言えばこの間に医療ドラマは星の数ほど濫発されており、とっくのとうに飽和状態。

特に『ドクターX』以降は突出したキャラクターが求められている空気があり、さもなくば医療ものの中でもあえてニッチな領域に絞った設定を押し出すしか手がなくなってきている中で、果たしてこの老舗の看板を掲げたプレーンな真っ向勝負がどう映るか。

公式HPを見る限り、「働き方改革」「世代間の違い」「タイパ」などの「いまどきな」言葉が飛び交っており、内容を時代に合わせてアップデートしようとの意気込みは見えるが、それはすでにすべての作品における最低限の振る舞いになっている。

そうなると特筆すべき要素は実績のほかには見当たらず、新規の入口が見えない。


◆『南田南弁護士は天才肌』(関西テレビ・フジテレビ/月曜22:00/芦田愛菜主演/10月19日スタート)
www.ktv.jp

妙に響きの良い題名だなと思いきや、Netflixで世界的ヒットとなった韓国ドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』の日本リメイク版とのこと。

すでにワールドクラスのブレイク実績という保険が大いにかかっている状態ではあるので、あとは自閉スペクトラム症の新人弁護士である主人公を、芦田愛菜がどのように解釈し演じるのかが最大の注目点になるだろう。

前クールには吃音の弁護士が活躍する『リーガルビート -逆転の法廷-』というテレ東のドラマがあったが、時系列的にはむしろあちらのほうが『ウ・ヨンウ』の大ヒットに影響を受けていると考えるべきか。

しかし毎度言っているような気もするが、やはり弁護士ものも依然として飽和状態。そこへ直近のヒット作を、このタイミングであえてリメイクしてまでやる必要があるのかという疑問を払拭できるのかどうか。


◆『妻を引退します』(テレビ東京/月曜23:06/朝日奈央・新川優愛主演/10月5日スタート)
www.tv-tokyo.co.jp

この枠には『シナントロープ』のような挑戦作を常に期待しているのだが、やはり枠の基板となっているのはあくまでも不倫夫への復讐劇であることに変わりはない。その点今回も、枠としてはやはり保守的な選択に見える。

これまでの同路線作に比べると、舞台が芸能界になっているのがやや異なる点か。だがそれは華やかでキャッチーな要素ではありつつも、日常生活のリアリティが減退してしまう危険性も当然ある。


【火曜日】
◆『kiDnap GAME』(フジテレビ/火曜21:00/坂口健太郎主演/10月6日スタート)
www.fujitv.co.jp

日本を軸に台北、香港、シンガポール、マニラ、バンコクといったアジア中から実力派俳優陣を結集し、アジア7都市に渡る同時多発誘拐事件を扱うという壮大なストーリー、というかもはやプロジェクトと言うべきか。

「国際共同製作」という体制が吉と出るか凶と出るかはわからないが、これがNetflix以降のスタンダードになっていくのか。もちろんお隣の『VIVANT』あたりを強く意識しての試みでもあると思うが。そのスケールに負けないだけの内容を期待したい。


◆『いろはの恋は時代をかける』(TBS/火曜22:00/上白石萌音主演/10月13日スタート)
www.tbs.co.jp

令和の小学校教師の身体に、江戸時代の飛脚屋の娘の魂が乗り移ることによってはじまる、300年越しのロマンティックコメディ。

正直なところまたタイムスリップものか……と辟易してしまうが、時には今春の『リボーン ~最後のヒーロー~』のようにそれが効果的に機能するケースもあるので、やはり使いかた次第ではあるのだろう。

それにしても大昔の少女漫画設定すぎるような気もするが、それでも上白石萌音ならばなんとかしてくれるのか。


◆『会社員』(NHK総合/火曜22:00/吉田羊主演/10月13日スタート)
www.nhk.jp

不意に届いた脅迫文が、女性会社員のキャリアと組織を揺るがしていくオフィス・サスペンス。

オリジナル脚本を、公募で選ばれたメンバーがチームライティングで作り上げているというのが興味深い。劇団、アニメ、ゲームなど様々なジャンルのシナリオを手がけてきた人たちが含まれているようで、そのチームプレイが作品になにかしらの新しさ、あるいは強度をもたらすことになるのかは今後に向けても気になるところ。


【水曜日】
◆『相棒 season25』(テレビ朝日/水曜21:00/水谷豊主演/10月21日スタート)
www.tv-asahi.co.jp

現行連続ドラマとして日本最長シリーズの新記録を樹立することになるシーズン25。

もはや語るべきこともないが、毎度シーズン序盤はスケールの大きな事件を持ってくる傾向があるので、新規の人も入りやすいかもしれない――と、わりと最近『相棒』を受け容れられるようになった僕が言ってます。


◆『ポリティカルパン』(フジテレビ/水曜22:00/石原さとみ主演/10月7日スタート)
www.fujitv.co.jp

石原さとみと脚本家の野木亜紀子が『アンナチュラル』以来約8年ぶりにタッグを組んで放つ、政界を舞台にした怪盗エンターテインメント――とのことだが、その設定の土台にあるのが日本ではなく、架空の国「ニッポニア」というのがどうにも引っかかる。

というのも、野木亜紀子の前作『ちょっとだけエスパー』におけるファンタジックな能力設定が、個人的には微妙というか粗すぎていまいち乗りきれなかったからで、この人は人間関係を描く脚本は非常に魅力的だけれど、少年漫画的なフィクション設定に関してはあまり向いていないのではないかと感じていたところだったので。

しかし前作から本作への流れを踏まえると、近ごろその手の作品にハマッているのか、あるいはそもそも本来そういうのが書きたかったということなのか。一方でおそらくは架空設定にしないと政治のことは描きにくい、というテレビ局側の大人の事情もあるのかもしれないが、しかし同局(といっても関西テレビ制作だが)で『エルピス』や『銀河の一票』といったリアルな政治ドラマを放送していることを考えると、やはり脚本家の好みなのだろうと思う。

あとは細かくてどうでもいい部分なのかもしれないが、『ポリティカルパン』というタイトルの、「ル」を一個省略してくるあたりとか(こういうのなんて言うんだろう? 駄洒落、というわけではないけどなんかそういう感じ)、いまさらルパンを持ち出してくるあたりとかの感覚が、なんだかすでに上滑りしているような気がするのは気のせいか。

それでもやはり本作への期待度は高いが、そのフィクション度合い高めの設定に関しては、多少構えつつ観ることになるだろう。


◆『メリーベリーラブ』(日本テレビ/水曜22:00/チ・チャンウク・今田美桜主演/10月7日スタート)
www.ntv.co.jp

一夜にしてすべてを失った韓国人の空間プランナーと、いちご栽培に情熱を注ぐ日本の農業女子が繰り広げるロマンティック・ラブコメディ。

『愛の不時着』を手がけたCJ ENMと日本テレビによる共同製作でDisney+も絡んでいる、という見るからに海外展開を視野に入れた強めの布陣だが、今期妙にその手の共同製作ものが増えているのはやはり時代の趨勢なのか。というかむしろいまさらという気もするのだが、これまでそれだけ日本のテレビ局の腰が重かったということか。

空間プランナーと農業女子という表面的な設定はそれなりに新鮮味があるようにも見えるが、しかし成功者の男がふと挫折した直後に出会った女性と恋に落ちる、という「捨てる神あれば拾う神あり」的なタイミング重視の展開は、いかにも韓流ラブコメ設定という感じで既視感が強い。


【木曜日】
◆『アナログナース~デジタルってなんなんだよ!?~』(テレビ朝日/木曜21:00/松下奈緒主演/10月22日スタート)
www.tv-asahi.co.jp

『ドクターX』『ザ・トラベルナース』と同じ世界線で繰り広げられる医療ドラマ三部作の第三弾、という位置づけの作品。そもそも『ザ・トラベルナース』が『ドクターX』と共通の世界線だとも思っていなかったが、どうやらそういうことになるらしい。

あえてつけ足された「~デジタルってなんなんだよ!?~」という副題にはどうにも蛇足感があるが、デジタルさらにはAIが猛威を振るう現代への逆張り設定をもうひと押ししておきたいという意図は見える。

そのうえで、ナースものというだけでなく「孤高のフリーランス看護師」というところまで『ザ・トラベルナース』と設定がかぶっているため、そことの差別化を図りたいという狙いもあるはず。主人公の性別の違いこそあれ、問題は題名ではなくその設定のかぶり自体であるような気もするのだが。

『ザ・トラベルナース』は中井貴一と岡田将生という年の差コンビによる丁々発止の掛けあいが絶妙で面白かったが、あのレベルのコメディを松下奈緒でやるつもりなのか、はたまた強気な『ドクターX』路線を目指すのか。すべては主人公キャラの魅力次第だろう。


◆『波うららかに、めおと日和』(フジテレビ/木曜22:00/芳根京子主演/10月15日スタート)
www.fujitv.co.jp

昭和12年を舞台に描く恋物語の続編。個人的に、前作にはあえて昭和初期設定でやる意味とリアリティが感じられず、興味が持てなくてスルーしてしまった。

その続編となる今作は夫婦が成立して以降の物語ということで、どこに山場を持ってくるのか逆に興味はある。もはや夫婦ドラマにほとんど不可欠となっている不倫などの不純な展開は、作風的におそらく使えないのだとすれば。


【金曜日】
◆『ボーダーズ 警視庁特殊事件対策班』(テレビ東京/金曜21:00/沢村一樹主演/10月16日スタート)
www.tv-tokyo.co.jp

異なる特殊技能を持つ5人の特設チームが、縦割り組織では対応しきれない「境界線の事件」に挑む。

刑事ドラマとしてはベタな「バディもの」に対抗して5人の「チームもの」となると、チームワークがハマッたときの爽快感が出せる代わりに、各キャラクターが薄味になったりいくらかかぶってしまうという危惧もある。もちろん技能的な振り分けはきっちりできているはずだが、性格的な部分でもきっちりと描き分けができるのかどうかが試される設定。

チームとしての化学反応が起きるかどうかは、各登場人物の「キャラ立ち」具合とその掛けあわせの妙にかかってくる。


◆『LOST10』(TBS/金曜22:00/横浜流星主演/10月16日スタート)
www.tbs.co.jp

主演の横浜流星と脚本の奥寺佐渡子が映画『国宝』のタッグであるというのがトピックだが、ドラマ好きとしてはむしろ『Nのために』等の湊かなえ原作ドラマとあの名作『最愛』を手がけた制作陣であるという情報のほうが重要であり、それだけでもう太鼓判を押したくなる。

そのうえで俳優陣には小栗旬、松下洸平、市川実日子といった実力派が揃っており、なおかつこの枠の本道とも言えるヒューマンサスペンス作となれば、もはや期待するなというほうが無理な話。

「全てを疑え」というテーマからしてすでにワクワク感があり、正直なところ死角はまったくないように見える。


◆『真田十勇士 SHADOWS OF THE TEN NINJA』(テレビ朝日/金曜23:15/岩本照主演/10月23日スタート)
www.tv-asahi.co.jp

僕が無類の武将好き、さらには真田推しということでとりあえず観ることになるが、特に忍者アクションものが好きなわけではないので、あまりにアクションに重きを置かれると途中離脱する可能性も。

公式HPによれば「世界照準の超大型プロジェクト」とのことなので、人間ドラマ部分にも力を入れてくれていると良いのだが。


【土曜日】
◆『俺たちの箱根駅伝』(日本テレビ/土曜21:00/大泉洋主演/10月10日スタート)
www.ntv.co.jp

日曜劇場でお馴染みの池井戸潤原作ドラマ。ただし今回は、同じ池井戸原作、同じ駅伝設定ですでに『陸王』をやっているからなぁ……という、まだ観てもいないのにどうしても既視感が否めない。

とはいえ、『陸王』が主にシューズメーカー目線であったのに対して、本作は選手側とテレビ局側の両面から描く、というスタンスに明確な違いはある。

そういう意味では『陸王』は企業もの、本作はスポーツものと企業ものが半々、という棲み分けになるのだろうか。

池井戸原作の安定感は間違いないはずだが、唯一日テレが手がけた『花咲舞が黙ってない』だけが個人的にはピンと来なかったので、日テレとの組みあわせには一抹の不安が。


◆『あにいもうと』(テレビ朝日/土曜22:00/榮倉奈々・赤楚衛二主演/10月17日スタート)
www.tv-asahi.co.jp

今期からの新設枠「サタデードラマ10」の第1作は、トラブルメーカーの兄を持ちながら念願の医師となった妹と、病と闘う妹を懸命に支える兄——2組の「兄妹」の運命が交錯する禁断のラブ・サスペンス。

あらかじめ公式HP上で、「地方編」と「東京編」の2部構成になることが予告されているのは珍しい。新枠の方向性を決定づける一作になるはずなので、通常の新作以上に力を入れてくることは間違いないはず。


【日曜日】
◆『VIVANT』(TBS/日曜21:00/堺雅人主演/7月26日スタート)

1クール目に比べると個人的にはやや乗り切れない序盤であったが、いよいよ盛り上がってきたところで二週に渡る中断を挟み、ここからはいよいよ山場の後半戦へ。

もうちょっと説明を減らしてくれないものかと思う場面は多いが、その情報量と情報密度がこの作品を支えているのも間違いはないので、いちいち巻き戻して台詞をいま一度聴き直したりしつつ観ることになる。


◆『もうパパ!』(ABCテレビ・テレビ朝日/日曜22:15/原菜乃華主演/10月4日スタート)
www.asahi.co.jp

仲良し家族チャンネルの裏側にある父と娘の関係を描く、動画配信者の令和版ファミリードラマ。

いかにも今っぽい設定だが、家族系動画を普段あまり観ていない人にも刺さるあるあるがどれくらいあるのだろうか。動画配信者ならではの問題に、視聴者がどれくらい我が事として共感できるのかが鍵か。


◆『ハイド&シーク 0秒前の彼女』(日本テレビ/日曜22:30/福士蒼汰主演/10月4日スタート)
www.ntv.co.jp

死んだはずの恋人からの着信と、そこからはじまる国家レベルの逃亡劇。

前クール同枠の『一次元の挿し木』や『Tシャツが乾くまで』もそうだったように、好きな人が生きているのか死んでいるのかわからないというのは物語を駆動させる設定の定番だが、その影響が国から追われるレベルにまで拡大するスケール感が本作の特筆すべき点か。

考察を誘う仕掛けが随所に張り巡らされていそうな作品。


【今期の個人的注目作】

◎『LOST10』
『最愛』シフトに死角なし。断トツの期待感。

○『kiDnap GAME』
国際展開を含む力の入りように期待。

△『ポリティカルパン』
今後の野木亜紀子脚本への信頼度を計る試金石。架空の国設定が全体へどのように作用することになるのか。


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2026年夏ドラマおすすめベスト5(7月スタート作)

今クールも序盤を観た時点で、おすすめのドラマを5本に絞ってみた。

といっても今期は「圧倒的な2強+それ以外」といった様相なので、3位以下はかなりクオリティに差がある印象。

加えて、はじまってみれば1位が期待以上に素晴らしすぎるので、個人的には「1位>>>2位>>>>>(越えられない壁)>3位以下」くらいの感触ではある。

2位が予算的にほとんどドーピングのようなレベルにあると考えると、1位は現状ちょっと考えられないレベルにある。もちろんこの先の展開によるところはあるが、序盤の展開は年間ベストどころか、数年に一度レベルのクオリティであるかもしれない。

なのでこの記事はほとんど、1位作品のレビューになる。


1位『Tシャツが乾くまで』(TBS/金曜22:00/蒼井優主演)

「『silent』の生方美久脚本×TBS」がどのような化学反応を見せるかというのが一番の注目ポイントだったが、いまのところそれが確実に良い方向に出ている。それどころか、これまでも充分に質の高かった脚本の良さが、ようやく完全に引き出されているように感じる。

生方脚本の真骨頂といえば、やはり人情の機微を描き出す繊細な会話劇。だがこれまで彼女が書いてきたフジテレビ系作品では、ともすれば脚本に作品が負ける瞬間というか、役者の演技よりも脚本の台詞が前に出てしまうシーンがときにあった。大袈裟に言えば、役者が憶えた台詞をそのまま言わされている感が少なからずあるというか。

それは個人的には許容範囲内だと感じてはいたものの、人によってはその作家性及びメッセージ性の強さが前面に出すぎていて、あざとく感じられる部分もあったように思う。

それが今作では、あらゆる台詞が完全に登場人物本人の言葉として発せられているように感じられる。そもそも脚本にある言葉の強度と精度が高いため、それを日常の言葉に落とし込んで表現するのはどうしても難しくなるはずだが、今作に関してはかなり複雑な感情表現に関しても、最小限の言葉で自然に表現されているように聞こえる。

そのうえで台詞の一語一語に込められた意味や感情が通常のドラマよりも多く重層的で、一単語ごとのコスパが異様に高いため、一瞬たりとも台詞を聴き逃すことができない。おかげで三往復ぶんの会話が一往復で済んでいるくらいの密度があり、その会話の濃度がドラマに終始緊張感をもたらしている。

派手な動きが続くというよりは、じっくりと心の中を静かに観せるタイプの作品ではあるのだが、この会話の張り詰めたテンションと押し引きが続くおかげで、その展開の面白さはちょうど逆サイドにあると言っていい動的な『VIVANT』に勝るとも劣らない。それどころか、個人的には本作のほうがよりスリルを感じる。

そしてこの点に関しては、役者の演技力や台本理解力、そして演出にも負うところがあるはずで、ためらい、言い淀み、微妙な距離感、そのときどきの表情にもすべて意味が込められているように感じられ、とにかく観ていて油断がならない。すべてのシーンに意味が凝縮されていて、単にその場面で登場人物が言いそうな言葉を使うのではなく、必ずその奥にもうひとつ深い意味の込められた言葉が飛び出してくる。誰もが穏やかな口調で、出し抜けに結構怖いことを言う。

そういった台詞の数々から思いやりや相手への深い理解を感じるか、単にまどろっこしいと感じるかで作品の評価は大きく変わってくるだろう。しかしそんな細かな台詞レベルだけでなく、大枠の物語としても楽しめるような二層式ハイブリッド構造になっているのが、また本作の得難さだと感じている。

一文ごとは言語表現にこだわり抜いた純文学であるにもかかわらず、全体としてはダイナミックなミステリーやサスペンスといったエンタメ作品としての娯楽性をしっかり担保している。このバランス感覚には、やはりTBSの金曜ドラマならではの枠の地場というものをたしかに感じもする。

ミステリーの枠組み云々ではなく、人間そのものがミステリーであるということを突きつけてくるような、繊細かつ野心的な作品。


2位『VIVANT(第2シーズン)』(TBS/日曜21:00/堺雅人主演)

個人的には期待が大きかったぶん、いまのところややそれを下回る内容ではあるが、それでも楽しんで観ている。

いまいち乗り切れていない一番の理由は冒頭の問題設定の部分で、たとえ第1シーズンでそれなりに出番のあった黒須がそこに含まれているにしても、よく知らない他の別班員を助けるという主人公の動機が弱く感じられてしまったことが大きい。

その奥にもうひとつ大きな問題が見えてくるまでは、やや徐行状態であるような気も。だがその先には、必ずやさらに壮大な展開が待ち受けているはずで、本気でドライブがかかるのはそこからか。

なにしろ2シーズン=6ヶ月ぶち抜きの長尺なので、むしろ立ち上がりはやや抑え気味のほうが中だるみを防げると考えるべきか。


3位『告白-25年目の秘密-』(日本テレビ/土曜21:00/松村北斗主演)

明らかにTBS金曜ドラマを意識したようなタイトルだと思いきや、まさにその手の愛と狂気のミステリー路線。

しかしところどころ脚本や演出に疑問符のつく場面があり、細部まで詰め切れていない印象が残る。

たとえば主人公がヒロインをほとんどストーキングしていることをバラしてしまうような台詞をポロッとこぼしてしまうシーンが何度かあるのだが、慎重なタイプの主人公が自らそんなことをうっかり口走るはずはないだろうと感じてしまった。

これはもちろん、彼女に主人公の存在を怪しませる段階として必要な手順ではあるのだろうが、その手順をいかにも手順らしく本人の口から種明かしさせてしまうのは、ややご都合主義が過ぎるように思う。

だが今後の展開が気になるという意味では、引き続き興味が続いている作品。


4位『マイ・フィクション』(ABC・テレビ朝日/土曜22:15/玉森裕太主演)

記憶喪失系ミステリーが近ごろ妙に増えているような気がするが、それを主人公だけでなく広範囲に広げていくようなエクストリームな設定と展開。

とことんまで記憶喪失設定を使い切ってやろうという意志とこだわりが見え、そうなるとどこまで展開していくのか興味深い。しかしここまでやるとさすがにわからないことが多すぎて、何を期待して良いものかもわからなくなってくる。

もう少しヒントの分量とタイミングが適切であれば良いのだが、ほぼノーヒントに思えるところで思いがけぬ急展開がやってきたりもするので、意外な回答を与えられたときの爽快感があまりない。

だが話がどこへ向かっているのかわからない、というのが一種の牽引力になってもいる。


5位『幸せになりたいマサムネくん』(MBS・TBS/MBS火曜24:59 TBS火曜25:26/中沢元紀主演)

派手さはないのになぜかモテてしまう身勝手な主人公、という古き良き王道ラブコメだが、逆にいまどきそういうほうが珍しいということなのか、その恋のすれ違いをついつい見守りたくなる。

特に何が際立っているというわけではないが、三角関係がどう展開するのかは気になるところ。誰に感情移入して観るかでだいぶ感想が変わりそうだ。


radiotv.hatenablog.com

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『ダブルインパクト2026 漫才&コント二刀流No.1決定戦』感想~言語化の時代に現れた造語の魔術師~

今大会の総論は、優勝者である滝音のところにすべて込めたような気がする。なので今回は、このまま登場順に個別の感想を。


【滝音】
一本目は「実家に帰る」というテーマ設定の上に、「能コメント」「カーネルを三ダース」「サランラッパー」「アレルゲンまみれ」「インターンポテト」「ところがワッショイ」など、とにかくオリジナルのワードを連発して繰り出していく造語漫才。トップバッターにしていきなり大会の言語レベルをグッと上げてきた手応えがあった。

全体にボケがやや並列的で、起伏や展開に乏しく積み上がりの要素がないのが彼らの弱点だと認識していたが、しかしここまで百発百中だと最後までテンションは落ちずに走り切れる。

あきらかに長尺向けのスタイルではあるのだが、短時間のあいだに打数を増やすことによって、言葉の精度と密度で強固な世界観を組み上げている感じ。言葉が単なる言葉に終わらず、世界観までいくとさすがに強い。

二本目は寿司職人の取り調べコント。

刑事が持ち出した嘘発見器が、事件ではなく本職の話題のほうで引っかかるという糸口から、職人の異常性が次々と明らかになっていくという橫ズレ展開。

当初は職人のやる気のなさを並べていく大喜利になるのかと思いきや、途中で「フィクションなハクション」といった純粋な言葉遊びも挟みつつ、嘘発見器の「ピー」音にたいする様々な解釈ツッコミなど、別角度の視点も逐一入ってきて飽きさせない。

最終的に何が嘘なのかすらさっぱりわからなくなる混迷のラストも謎の深みを感じさせ、コントでも漫才と同レベルの圧倒的言語能力を感じさせた。

滝音はラジオが面白いとずっと感じていて、個人的にはラジオが面白い芸人は間違いないと信頼しているのだが、しかしその言葉に頼りすぎるスタイルがショーレースでは足枷になっているとも感じていた。

だがそれでもひたすらに言葉を磨き続けることを諦めず、その精度を上げることによって言葉で勝ち切ったこのスタイルは実に潔く、言葉による笑いの力を改めて証明してくれたことがなによりも嬉しい。

これはある意味では、言語化の魅力に気づいた時代がようやく滝音に追いついたということかもしれない。言語化言語化とやたら各方面で叫ばれる昨今、語彙力による笑いの可能性をいよいよ見せつけたという意味で、言語化の申し子が言葉の魔術によって果たした言葉の笑いの圧倒的勝利。


【ドンデコルテ】
一本目はスーパーで傘を万引きした青年と店員のコント。

にしては単なる二人の口論というわけでもなく、やたらとバックヤードが狭いことばかりを強調してくるのが妙だなと思っていたら、その設定が後半にきっちり効いてくる巧妙な仕組み。

とはいえ前半のそのフリの部分におけるバックヤードの狭さを伝えるあるあるがやや弱く、立ち上がりに少し時間がかかってしまった印象。

途中から万引き青年が店内のレイアウト改善点を指摘するところで一気にボルテージが上がるが、そうなればラストはもう一歩、二人が完全に関係性を逆転させたのちに、青年が店を完全に支配してしまうところまで行き切ってほしかったような気も。

二本目は「好きな人と何を喋ればいいのかわからない」という質問に答える形ではじまる、彼らの真骨頂とも言うべき演説漫才。

自らレクチャーを開始しながらも、早々に自分を例外として除外することによって語り手を客観的な立ち位置に浮かせるその立場設定の妙。それによって極私的な主観を客観として響かせることができるというこのねじれた構図が、銀次のインチキ教祖感にドライブをかけて論をグイグイと引っ張っていく。

「それはもう放送大学です」という決め台詞も完璧に決まり、どういうわけかずっと聴いていたくなる狂気の持論。『M-1』に続いてすでにスタイルも内容も完成しきっており、すでに文句のつけようがない出来だろう。このクオリティを続けていれば、もはや初出のインパクトはなくとも自動的に『M-1』優勝も手に入るのではないか。


【ダンビラムーチョ】
全員が動物の能力を持ったスーパーヒューマンを結集させたビースト高校野球部、という設定のコント。

しかし演じ終えてから自らも触れていたように、「大阪桐蔭」を連呼する箇所がどうにも気になってしまい、いまいちコントに入りきれなかった。

大阪桐蔭がこの夏の予選で敗退したという事実が、ちょうど直前にヤフーのトップニュースレベルで入ってきてしまっていたため、ここで言う「大阪桐蔭」というワードが、必ずしも「絶対的強豪校」という記号として機能しなくなってしまっていたように思う。むしろ皮肉として取り上げているのでは? と感じてしまいかねない瞬間もあったような。

タイミング的に変更は難しかったのだろうし、高校野球にまったく興味がない人には影響しない箇所ではあるのだが、逆に高校野球の知識がある程度ないと入り込めない設定でもあるので、ここは細心の注意を払うべきところではないかと。

設定がややベタで古いギャグ漫画のようなところも気になった。そしてその設定に対して展開にあまり意外性がなく、「動物」の解釈をもっと広げたりぶち壊したりするところまで行ってほしかった。

二本目は、「ABCの歌」があるなら「あいうえおの歌」があってもいいはずだということで、ポルノグラフィティの「サウダージ」に乗せてひたすら「あいうえおの歌」を歌いまくるという歌漫才。

成功を目指すふりをしながらも、実質「どう文字数を合わせないか」大喜利になっていく様は大いに盛り上がりを見せるが、そうなると後半はなにかしら楽しさ以外の深みが欲しくもなってくる。最終的に怖さや狂気の領域まで振り切れてほしかったような気も。


【TCクラクション】
この世にないものをリズムに乗せて言いあうゲーム漫才。

この世にないものとして、「無償の愛」「輝かしい未来」「心からの笑顔」「頼りになる人間」など、ノリノリで絶望的なことを列挙していくズレの面白さがあった。

途中まではそのワードの強さに引き込まれたが、ラストで価値観や立場が逆転するなど、なにかしら驚きの展開があることを期待してしまった。


【蛙亭】
小学校のお昼の放送室をデフォルメして再現したコント。

オタクっぽい子供同士のマウンティング合戦は小ネタが満載で、いちいち思い当たる節がある。

だが一方で小ネタの羅列に終始してしまった感もあって、後半は大人をも巻き込むようなもう一段階大きなトラブルへの発展や、子供らしい間違った理屈をこじらせまくってカオスを招くようなところまで行ってしまってほしいと感じた。

二本目は「仕事と私、どっちが大事?」という永遠の難問に対する解答を女が男にレクチャーする漫才。

ただし状態としては女役をする男(中野)に男役をする女(イワクラ)が教えるという、見た目とは反転した形になっており、両者の役割を逆転させることによってズバズバと遠慮なく物が言える、という巧みな構図になっている。

こちらも個々の小ネタのクオリティは高いがやや並列的で、後半になにかしら劇的な驚きが欲しかった。


【ななまがり】
夜の山道で妖怪に遭遇するコント。

最初に「妖怪ハム貼りじじい」が出てきた時点で期待が高まったところで、次に「砂かけばばあ」が出てきて「あれ地味だな?」と思ったところ、「出順を間違えた」というメタ的な笑いに落とし込んできてなるほどとようやく納得する。

以降も「かぶり」「ネタバレ」「名前を噛む」などの構造的な笑いが続くが、彼らにしては爆発力が足りなかった。

メタでシステマティックな枠組みを固めすぎた結果、ななまがりらしいボケの飛躍力がその枠内に収まってしまっているようで、非常にもったいなく感じた。

全体にちょっと説明的すぎた感があり、それがむろん昨年の苦い経験を踏まえたうえで伝わりやすくしようとの工夫であることは痛いほどわかるのだが、彼らにはやはりもっと意味不明でぶっ飛んだ要素を投げっぱなしで逃げ切ってほしいと思ってしまった。それがわがままなリクエストであるということは、もちろんわかってはいるのだが。

たしかに「どこまで説明するか」「どこまでわからせるのか」という、いわば「どこまで噛み砕くか」という問題はお笑いに限らず常にあって、バランスを取るべきなのか振り切ったほうがいいのか、あるいは基準を観客に合わせるべきなのか審査員に合わせるべきなのかどこにも合わせるべきではないのか、といったあたりも含めて、かなり悩んだ結果としてこうなっているのだとは思う。

それでも彼らには、どこまでも振り切ることによって観る側を強引にねじ伏せてほしいと願う。それを目指せるぶっ飛んだ発想の持ち主は、やはり稀少だと思うので。


【ビスケットブラザーズ】
一本目は高級旅館の女将と客の漫才。

全体にコントで観たい漫画的なキャラクターの強さを感じた。基本的にトリッキーな状況や動作が多いため、漫才だとどうしても絵が見えにくく、独特の世界観についていくのが難しい。

そうなると世界観を摑むためにも、キャラクターだけでなくもう少し状況全体を見せてほしいと感じた。長尺のネタを短時間に詰め込む際に生じがちな、説明不足もあるのかもしれない。

二本目は、ブリーフ一丁で登場する謎の男と男の子が出会うコント。

「俺は全員知ってるんだ」というひとことで狂気を感じさせるあたりは流石だが、そのほかの台詞がするすると流れていってしまうように聞こえるのがやや気になった。

このタイプの奇人キャラは、「変に見えるがこう見えて実は……」というそのギャップの部分が肝だと思うが、そこのところを後半もっと掘り下げて見せてほしかった。


【今夜も星が綺麗】
ピン芸人ユニットによるタクシーと客の会話漫才。

静かな立ち上がりから徐々に運転手が変であることがわかり、それがだんだんと狂気性を帯びていく。独特のテンポとトーンに引き込まれるが、コントというよりは演劇的な面白さと言うべきか。

審査員も指摘していたようにジグソーパズルの伏線を回収するタイミングが見事で、誰にもコンビ名が知られていないことを逆手に取って最後に自己紹介を入れ込んでくるあたりにも工夫と企みを感じる。

やや地味であったことは否めないが、もう少し長尺で観てみたいと思った。


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