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『キングオブコント2021』感想~「違和感」は設定に宿り、「共感」は細部に宿る~

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笑いを生むためには「共感」と「違和感」の両方を必要とするが、今回は特にその両者の「ねじれ」をどこにどの程度設定するかの勝負だったように思う。

 

一般には「共感」のほうが強調されがちだが、それだけでは笑いは浅いものに終わる。それを単なる「あるあるネタ」で終わらせないためには、どこかに思い切って強烈な「違和感」を持ち込まねばならず、しかし「違和感」は「共感」を伴わなければ理解されぬままに終わってしまう。

 

今年は例年になくこの「共感」と「違和感」を両立させているネタが多く、両者のねじり方も思い切ったものが多かった。それゆえに、全体のレベルが高く感じられたのだと思う。

 

以下、登場順に個別の感想を。

 

蛙亭

ヌルヌルの人工生命体ホムンクルスが、いきなり緑の液体を吐き出すという驚きのある出だし。その最大限不穏なスタートから、徐々にその産みの親との絆を深めていくという、SF映画的な設定と展開。

 

設定は日常的ではないが映画や漫画ではよく見かけるものであり、そういう意味で絶妙に「共感」と「違和感」を同時に感じられるラインを突いている。多くの人にとってこの作品世界の中で起こりそうなことはある程度想像できるが、ある程度以上には想像できないという設定。つまりリアリティを保証しつつも、作り手の腕次第で飛躍する余地をしっかり残している。

 

インパクトのある冒頭からすると、前半のヌルヌルいじりを繰り返すあたりはやや抑えめな展開であるように感じたが、後半ホムンクルスが無類の強さを発揮し、産みの親である岩倉が母性を感じる大団円で全体の満足度は高い。

 

トップバッターゆえに不利な境遇ではあったが、全体のレベルを上げるのに大きな貢献を果たしたように思う。

 

ジェラードン

「クラスに転校生が来る」という一見ありがちな日常設定だが、トリオのミスキャストっぷりで猛烈な違和感を作り出すというねじれた構図が面白い。よりによって、そこをズラしてきたのかと。

 

見た目にそぐわず典型的なイチャつきを見せつけるカップルの言動が、既存のラブコメへの強烈なパロディになっている。その一方で、かなり遅れて女生徒の角刈りを指摘するタイミングなど、的確に過不足なく入ってくるツッコミも、派手さはないが案外鋭い。

 

キャラクターを逆方向へ生かすというひねり所の選択が、異質で際立っていた。

 

男性ブランコ

一本目の「メッセージ・イン・ア・ボトル」設定から初めて出会う女性の、強烈な関西弁にまず度肝を抜かれる。出会いという日常への共感と、関西弁に感じる違和感の見事な衝突。

 

この関西弁の女性キャラが、見た目は千原ジュニアで中身は千原せいじという、「ひとり千原兄弟」のように感じられたのも個人的にはツボだった。

 

しかし驚きはそれだけではない。男は目の前で繰り広げられるキツめの関西弁やセルフツッコミの連打に、当然ガッカリしているものと思いきや、むしろ「好きだなぁ」などと言いはじめて完全に恋に落ちてしまう。

 

さらにはやがて、そこまでの展開がすべて想像上のイメージであったことが判明し、最後に現実が現れるという想像/現実の二元構成になっていることがわかる。かなり仕掛けの多いネタだ。

 

二本目は「レジ袋をケチッた男の末路」を描くという、いまだからこそ共感できる着想は面白かった。

 

しかし観ているほうとしては、つい一本目と同じような劇的展開を期待してしまった。そういう意味では「あるある」からの飛躍が、若干足りなかったように思う。

 

うるとらブギーズ

「迷子センターに駆け込んでくる父親」という設定は良くあるものだが、その親が焦りすぎて何を言っているかわからず、さらには説明している子供に特徴がありすぎて説明が難しい、という部分で共感を超えた違和感を生み出していた。

 

しかも親に説明された内容を、係員がどうアナウンスすべきかで悩むというもう一段階のハードルまで用意されていて、一見ありがちな設定でありながら、実はかなり凝った作りになっている。

 

後半やや尻すぼみ気味だった感はあるが、笑いを発生させる仕掛けの箇所に意外性があって、そこに作り手の技を感じた。

 

ニッポンの社長

ここまでレベルの高いネタが続いていたため、壊すとしたら彼らあたりだろうと思っていたが、壊すまではいかなかったものの明らかな違いを見せた。

 

基本的にはバッティングセンターでバッティングを指導するおじさんが、なぜかボールに当たりにいき続けるというだけのネタなのだが、これがボールに当たる演技が異様に上手く、当たるたびに笑ってしまうという不思議かつミニマムな構成。

 

ラストにはこのおじさんが打ちまくるという展開もしっかりあったが、流れとしては必然的に、実は無茶苦茶下手か上手かの二択のようなもので。そこまで体当たりのベタな笑いが続いていたぶん、最後はそれ以外の第三の選択肢を待っていたようなところもあったかもしれない。

 

【そいつどいつ】

パックをしている同棲中の彼女が、様々にホラー映画的な動きを見せる。

 

しかし女性のパック姿が怖く見えるというのはかなりありがちであるように思えて、怖さ以外の何かか、もしくはもっと度を超えた怖さが欲しくなってしまった。

 

【ニューヨーク】

間違いだらけのウェディングプランナー。とにかく間違い続けるくせに、すべて「オッケーです」のひとことで済まそうとするのが面白い。

 

ただ、ひとつひとつのボケは面白いのだがそれぞれが単発であるように感じられ、後半に向けて積み上げていくような展開ではなかった。

 

【ザ・マミィ】

一本目は、明らかに挙動不審なおじさんに道を訊く青年。人に道を訊ねるという行動の普通さと、そのわりに訊く相手の人選が悪すぎるというギャップが笑いを生む。

 

なぜか選ばれてしまったおじさんの放つ、「偏見とかないの?」「少しは人を見た目で判断しろ!」等の、通常口にすべき言葉を反転させたキラーフレーズが、社会常識をえぐるように痛烈に響く。

 

ミュージカル的なオチはやや間延びしているように感じたが、この二人の関係性とフレーズの力でグイグイ持っていかれた。

 

二本目では社長とその部下による、『半沢直樹』的設定のドラマごっこが展開される。

 

『日曜劇場』あるあるのようなネタが連発され、それはそれで面白いのだが、そうなると最後にもやはり『日曜劇場』的な大逆転劇が欲しくなり、ごっこごっこで終わるのでは少し物足りなく感じられた。

 

空気階段

レベルの高い今大会の中でも、彼らは群を抜いて面白かった。松本人志も最後に言っていたように、非常に価値のある完全優勝だと思う。

 

今年の単独ライブを観た時点で、ネタのクオリティに疑いはなかったが、その笑いの密度をコンテストの制限時間内で表現できるのかどうかに一抹の不安はあった。だが彼らは、今度こそ完璧にそれをやってのけた。

 

一本目は、いきなりパンツ一丁に縛られた状態での登場から明らかになるSMクラブ火災。しかも現場に取り残された二人の男のうち、ひとりは消防士だという。

 

消防士は恥ずかしい格好のままに消防士らしい活躍を随所に見せ、そこがSMクラブでありブリーフ一丁であることを除けば(いやけっして除けはしないのだが)まるでハリウッド映画のような展開。

 

さらにはやがて、もうひとりのほうも実は警察官だったことが判明し、ここに恥ずかしげもなく最強のバディが誕生する。まさに息をもつかせぬ展開に次ぐ展開。まったくなんという設定だろう。歴代最高得点にふさわしい、隅から隅まで緩みのない、ほとんど完璧なネタだった。

 

二本目もまたぶっ飛んだ設定で、店長が子供のころに描いた漫画をもとにして作ったメガトンパンチマンのコンセプトカフェ。

 

こちらは単独ライブでもやっていたネタだが、店主を演じる鈴木もぐらの、コンセプト通りにいかにも子供じみているところと、意外と大人らしくちゃんとしているところの出し入れが絶妙で。

 

出来の良すぎた一本目に比べると派手な展開こそないが、徹頭徹尾くだらないアイデアに溢れていて、設定の強烈さに細部がまったく負けていないのが凄い。

 

他の芸人たちが、現実をベースに飛躍するポイントを探っているのに対して、空気階段のコント設定は最初から違和感が強く、かなり飛躍している。それは「リアリティ」や「共感」を担保するためにはかなり危険なことで、ともすれば観客が置いてけぼりを喰らうことになるが、だからこそ他とは別次元の高い飛行曲線を描くことができている。地に足が着いていないからこそ、到達できる遙かな最高到達点がある。

 

それはそのコンビ名が示すとおり、空中の高い位置にある階段からスタートを切っているようなもので、しかしそんな突拍子もない設定にもかかわらず「リアリティ」や「共感」を強く感じられるのは、ネタの台詞や動きの細部にそれらが巧妙に埋め込まれているからだろう。

 

「違和感」は設定に宿り、「共感」は細部に宿る。それが万人に共通するものなのかどうかはわからないが、彼らのネタを観ていて僕はそう感じた。

 

どの方向からも文句のつけようのない優勝であると思う。

 

radiotv.hatenablog.com

 

マヂカルラブリー

空気階段による大爆発の直後だったという不運も、少しはあっただろう。

 

だが松本人志も言っていたように、『M-1』を獲った漫才に似た床を転がる展開で、インパクトに乏しかったのは否めない。

 

もはや笑いの実力は証明されているのだから、もっと既視感のない、挑戦的なネタで勝負してほしかったというのが正直なところ。三冠へのプレッシャーからか、やや守りに入っているように見えてしまったのは事実。