『キングオブコント2020』感想~容赦なく立ちはだかる90点の壁~
今年は前半、90点ジャストという点数が審査員から濫発されていて、これはもちろん悪くない点数というか一般には良い点数と言ってもいいくらいだが、あんまり良くない傾向だなと思っていた。
なぜならばその90点というのが、いずれも「100点満点」ではなく「90点満点」でつけられているように感じたからだ。これはあくまで僕の主観かもしれないが、個人的に89点は100点満点中の89点だと感じるけれど、90点は90点満点中の90点だという感覚がある。
とはいえこれは感覚的な話で、数学的には明らかに間違っているので伝わらないかもしれないが、たぶん審査員席で点数をつけている審査員の中にも、そういう感覚は少なからずあったんじゃないかと思う。
ではこの「90点満点」が何を意味するかというと、それは限界点か低く設定されていることを意味する。平たく言えば、「小さくまとまっている」と見なされたということだ。だがその中でも、やるべきことはきっちりやれているから、消去法的にその中で満点をつけるしかない。つまりこの90点は、「積極的な90点」というよりは「消極的な90点」という感じがする。
このブログでもたびたび触れてきたことだが、今年も審査員のバナナマン設楽統が、「爆発力」という言葉をことあるごとに使っていた。まさにこの最高峰のレベルで優勝するためにはその「爆発力」が求められるわけだが、そのためには審査員の心の中に、「100点満点」をいったんは想像させないといけない。
簡単に言ってしまえば、90点までは正気の努力でいけるかもしれないが、それ以上は狂気とセンスがないと届かない。それはもちろん、演じている本人が本当にそうかという問題ではなく、あくまでも作品としてそれを感じさせられるかということなんだけど、実は実際の点数以上に、「100点満点」を取り得るポテンシャルを感じさせられるかというのが、すごく大事なことなんじゃないかと今回は特に思った。
それでは以下、登場順に。
【滝音】
普通のラーメン屋かと思いきや、実は大食い大会の会場だった、という一個目の驚きが最大の驚きになっている。
それはもちろん面白いのだが、審査員の松本人志も言っていたように、出だしが最高到達点になったぶん、そのあとが物足りなくなってしまった。つまり竜頭蛇尾。
その初期設定を丸ごと覆してしまうほどの展開が、後半に欲しかった。
【GAG】
『君の名は。』的入れ替わり設定。それを三人でやることで、入れ替わりは一気に複雑化してゆく。
そういう意味ではトリオ編成を生かした作りであり、入れ替わりという要素は最大限まで使い切っていたと思う。
しかし入れ替わりという設定自体はすでに各ジャンルで使い古されたものである以上、それをいくら完璧にやりきったところで驚きはなく、それ以上の何かが当然のように求められる。
その向こう側まで行かないと、「90点満点」を「100点満点」に引き上げることはできないだろう。
荷運び作業員の、真面目すぎて非効率な手順を延々と見せられる。
ミニマムな設定で地道に積み上げていく内容に破綻はなくオチも綺麗だが、やはり爆発する箇所がないというか、どこにも爆弾を設置する場所がないという印象。
【空気階段】
個人的には一番良かったのがこの空気階段だった。
彼らには「電車のおじさん」という最強ネタがあって、それに匹敵するものを持ってこられるかというのが今回の注目ポイントだった。
さすがにあれ以上ではないかもしれないが、二本ともそれに近い確かなクオリティを備えていたと思う。
一本目は、霊媒師がお婆さんを降臨させるつもりが、なぜかラジオの電波を受信してしまうという設定。
この場合、基本的なメイン設定はあくまで霊媒師のほうであって、ラジオを受信してしまうのはその一例として処理するのが普通だろう。インチキ霊媒師が色々と間違ったものを降ろしてしまうというパターンの一例目として、ラジオを持ってくるという程度に。
ところが彼らの場合、霊媒師がラジオを受信した時点から、メインの設定がすっかりラジオのほうへ移行してしまうという、意外な方向への展開を見せる。
ここで普通とは別の選択肢を平然と選んで突き進めるところに、一般的な価値観とは異なる独自の因果律を持つ彼らの強みがある。
キャラクター寄りの芸人と世界観寄りの芸人がいるとして、そういった独自の世界を持っている彼らはたしかに後者だが、同時に鈴木もぐらの強烈なキャラクターという前者の要素も備えている。
今後も注目し続けていく必要があるだろう。
【ジャルジャル】
ジャルジャルの実力は優勝にふさわしい。だが今回のネタが優勝にふさわしいかというと、若干のクエスチョンマークは残る。
いつもに比べてやや守りに入っているというか、傾向と対策を練って獲りにいっている感じがどうしても見えてしまった。
彼ら最大の武器はもちろん発想の斬新さであるが、それを思い切ってぶつけたうえで、さらに面白くなるまで繰り返していく「勇気」も強力な武器になっている。
今回は、正直その「勇気」があまり感じられなかった。どちらかというと、やりたいことをやり切るというよりは、滑らないように気をつけながらすり足で走っているような。
とはいえ実力はもうとっくに証明済みであり、いつかは優勝すべき人たちだから、それがたまたま今回だった、というふうに納得している。
そういう意味では、『M-1グランプリ2010』の時の笑い飯の優勝に近いかもしれない。
【ザ・ギース】
必殺技のハープが出た時点で、会場の反応が思ったほどではないという大誤算があったと思う。
コロナ自粛中に身につけた特技として、すでにいろんな番組で結構露出していたのが、驚きをなくしてしまったのだろう。
結果、単に特技を見せつけるためのコントに見えてしまった。
彼らには秀逸なネタがたくさんあるので、ブレずにシュールな姿勢を貫いてほしいが、世間がそれを許さないのだろうか。
【うるとらブギーズ】
陶芸家とその弟子によるミニマムなやりとりが繰り返されるが、単調なので途中で飽きがきてしまった。
そうなれば、さすがに壊した先の展開が欲しくなる。
【ニッポンの社長】
ケンタウロスの登場にはワクワク感があるが、それ以降の流れに無理があるというか、設定を生かす方向に機能していないと感じた。
「飛躍」は欲しいが「無理」は冷める。観るほうはわがままなものだが、そこには明確な違いがある。
【ニューヨーク】
一本目と二本目で、まったく別の顔を見せてきたことにまず驚いた。
一本目はこれまでイメージしていたとおりのニューヨーク。ベタだが、そのエスカレートの度合いで他と差をつけていく。
序盤にさほどの驚きはないが、終盤大岩が出てドリルが出てきたあたりで行くところまで行ったという満足感がある。
二本目は内省的な思考回路の吐露が続くという、思いがけず精緻で文学的な内容。この文体があれば、何をやっても面白くなるのではないか。最後は炸裂して派手に終わるが、こちらのほうが今後への可能性を感じさせる。
キャラクターが際立っているトリオだが、コントのクオリティはいつも安定して高い。
今回も間違いなく質は高かったが、台詞を詰め込みすぎているせいか、そのうち噛みやしないかとついつい気になってしまい、おかげで内容に集中できないきらいもあった。
声の大きさに比べて会場のリアクションがおしなべて薄いという、コロナ禍における会場環境の影響も少なからずあったように思う。
《『キングオブコント2019』感想》
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《『キングオブコント2011』感想》
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