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『キングオブコント2017』感想~現実から価値観をズラす悪戯のセンス、それを徹底してエスカレートさせる勇気~

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4分間のコントは基本的に、「現実から1箇所だけ何かをズラして、それをエスカレートさせて終わる」。それを基本の型として観ていくと、勝負どころはおよそ2箇所に絞られる。

 

1つは「どこを現実(常識)からズラすか」。もう1つは「それをどのように(そしてどこまで)エスカレートさせていくか」。前者は「横の動き」、後者は「縦の動き」というイメージである。前者を「設定」、後者を「展開」と言い換えてもいい。

 

もちろん、「そんな既存の型などすっかり破壊したものが観たい」という気持ちも多分にある。しかし最終的に点数勝負となると、ある程度は音楽で言うところのベタな「コード進行」をベースに評価せざるを得ない部分があるのも事実だろう。

 

そしてその範囲内であっても、先に述べたように差のつく勝負どころは確実にある。物事を常識からズラすセンスと、エスカレートさせる勇気。その2点に注目しながら、今大会を観た。……ような気がする。……その割には違うことばかり言うかもしれない。

 

以下、登場順に感想を。

 

わらふぢなるお

カスタマーサポートセンターのサポート係と、そこに電話をかけるお客様という設定。

 

しかし通常であればモンスターカスタマーが出てきそうなところを、モンスター要素をサポート係のほうに持たせ、お客様のほうが常識的社会人であるという逆転現象が起きている。

 

現実にありがちな要素をきれいに反転させるという手法は、ベタなズラし方だが設定としては安定する。

 

問題はそうやって安定した設定から、事態がさほどエスカレートせずに小さくまとまってしまったことのほうだろう。設定がベタな場合、展開は相当に飛躍させなければ物足りなく感じる。

 

ジャングルポケット

1本目はエレベーターに乗る間際の攻防。

 

深刻な別れ話を、エレベーターに乗る瞬間という流動的な状況でおこなう点が、現実からズラしてある要素。

 

彼らは毎度、3人でないとできない設定をしっかり持ってくるのが流石。

 

目の前で繰り広げられるカップルの別れ話を迷惑がっていた斉藤が、中盤からはむしろ積極的に食いついてしまうというように、「起承転結」でいうところの「転」の部分が強いのがジャングルポケットの特長であり武器だと思う。

 

ただし昨年のネタに比べると、動きがややおとなしく、インパクトに欠ける印象も。

 

2本目は銃を突きつけられた人質という状況から、恐怖のポイントを銃以外の物(ロッカー)へとズラしてある。

 

こちらは音も含めアクションは大きかったが、展開がさほどエスカレートせずに終わった印象。

 

しかしジャングルポケットのコントは、本当にハズれがない。

 

かまいたち

1本目は公園で告白された時のリアクションを練習する学生と、それを見ている同級生。こうやって説明してもわけがわからないあたり、常識的な状況からはかなり思い切ってズラしてある。

 

そんな練習をわざわざするのもおかしければ、見えない相手に向かってしているのもおかしい。つまりこのコントに関しては、基本である「1箇所」ではなく「2箇所」ズラしてあるという見方もできるかもしれない。

 

そういう意味では、現実的に見えてかなり挑戦的な設定だが、この2つめの「見えない相手」という要素が、別の形で後半効いてくる。それによって後半は、劇的に恐怖感をエスカレートさせることに成功している。

 

2本目はウェットスーツが脱げないというだけの話。本当にそれだけなのだが、そのミニマムな設定の狭さこそが、全体にタイトな強度をもたらしている。

 

ツッコミに回ったときの山内の凄さは、目の前の事象だけでなく「相手の思考回路をも先読みしてツッコんで来る」ことだろう。

 

相手が「何をやったか」だけでなく、「何を考えてそうしたか」まで読み取ったうえでツッコんで来る。実際に「起こったこと」だけでなく、「考えているけどまだ起こっていないこと」にもツッコミを入れられるという意味で、「未来形のツッコミ」であるとも言えるかもしれない。

 

ちなみにこの「先読みツッコミ」の能力者としていま個人的に注目しているのがアインシュタイン河井ゆずるで、彼らのラジオ番組『アインシュタインのヒラメキラジオ』(KBS京都)では、強力な顔面と非力な学力を持つ相方・稲田の弛緩した思考回路をビシバシと先読みして窮地に追い込むという芸当が炸裂している。個人的にはいま一番面白いラジオ番組だと思っているので本気でおすすめしたい。

 

話を戻すと、かまいたちの優勝は至極妥当だったように思う。設定段階における「ズラし」という横の動きと、それをエスカレートさせ転がしていく縦の動きが連動した結果、ねじれながら螺旋状に上昇していくような、斜め上方向への推進力を強く感じた。

 

アンガールズ

2本とも安定したクオリティで安心して観ていられたが、彼らぐらい売れてしまうと何かこれまでとは違う実験的要素を出すのでなければ、こういう大会に出ることはあまり意味がないような気も。

 

アンガールズにとって4分はちょっと短すぎるようで、もっと長尺で後半エスカレートしていく形がベストであるように思う。

 

パーパー

モテない男の卒業式。

 

以前ネタ番組で観たときは、独特の空気感にそれなりのインパクトを受けたような記憶があるが、今日は小さくまとまった感じでほとんど印象に残らなかった。

 

2本前にやったかまいたちの学生ネタに比べるとヒネりが足りないように見えてしまった、という出演順の作用も少しはあるのかもしれない。

 

さらば青春の光

1本目は居酒屋でのよくある注文間違いが、実は店側のあざとい売り上げ向上策であることが徐々に明らかになっていく。

 

まさにちょっとした日常の「ズレ」がどんどんエスカレートしていく状況なのだが、この人たちは本当にこの「エスカレートのさせ方」が上手い。一段一段ギアを上げていくきっかけとなる言動も明確で、「あ、いまギアが一段上がった!」というのが、観ていると手に取るようにわかる。

 

2本目はパワースポットの岩を守る警備員の話。「ありそうでない、でも役割的にはあるのかもしれない職業」という絶妙な設定。「重要な場所には警備員が必要」という世間の常識を逆手に取ったような、発想の鮮やかなる転換。

 

「パワースポットに最接近し続けているのに全然幸せじゃない」という一点を突かれ質問攻めに遭う警備員が、途中から逆ギレして自らの不幸を独白しはじめるという劇的なギアチェンジの妙。

 

2本とも間違いなくクオリティが高く、個人的にはかまいたちかさらばのどちらかが優勝に相応しいと感じた。

 

にゃんこスター

結成半年弱の男女コンビがそのインパクトで今大会の話題をかっさらった感があるが、正直そこまで斬新だとは感じなかった。

 

男(スーパー3助)のほうは「実況解説型ツッコミ+叫び+右往左往+工作」という、書き起こしてみるとその構成要素は完全にもう中学生フォロワー。ただし「もう中」ほど天然ではないようで、さほど状況からズレることなく的確にツッコミができてしまっているぶん小さくまとまっている感がある。

 

一方で女性(アンゴラ村長)のほうはキンタロー。的な動きで黙々と踊り続ける。

 

となると、肝は動きの質とツッコミのワードセンスにかかってくるが、特にツッコミの言葉選びが実況の粋を出ておらず、単に大声で状況をそのまま説明しているだけの状態が続くため、やや物足りなさを感じた。

 

ネタは2本とも同じスタイルだったが、さすがに2本目は早々に飽きが来てしまった。

 

コンビ名も含めて、ニューフェイスならではの「人を食ったような感じ」が評価を得たのだと思うが、ネタ自体はむしろ「丁寧にちゃんと伝えようとしすぎている」印象を受けた。このキャラクターでいくならば、もっと観客を置き去りにする覚悟でぶっちぎって欲しかったが、そういうタイプでもないように見えた。

 

【アキナ】

バイト控え室での会話劇。

 

あえておとなしめの設定をおとなしいままホラーに変換する、という見せ方の工夫は感じたが、その演出ありきのスタイルがネタ自体を矮小化させてしまっている感じを受けた。

 

結果、小ネタの羅列に終わってしまい、後半に向けて盛り上がっていく展開が見えなかった。

 

GAG少年楽団

老いらくの幼馴染みによる恋愛劇かファミリードラマか。

 

「見た目はすっかり老人なのにやりとりは幼馴染みのまま」という時制と感覚のズレが設定として効いてくるかと思われたが、むしろその設定からハミ出す部分がないために、「設定だけですべてが説明できてしまう」という落とし穴にハマッてしまっている印象。

 

東京03に近い作風だと感じたが、東京03の場合はいったんかっちりした設定にキャラクターをはめ込んだ上で、それを思い切って破壊するという展開力がある。

 

タイプとしてはホームランバッターではないのかもしれないが、コンテストにおいてはやはりなんらかの破壊力が欲しい。

 

ゾフィー

母親が出て行ってしまった直後の父子。だが息子の「メシ至上主義」が炸裂するという感覚的な「ズレ」が効いている設定。

 

ただし、そのズレの箇所がとても明確であるがゆえに、「この1箇所の価値観のズレで押していくんだろうな」ということは早い段階で観客にわかってしまうため、その先の展開で観客の想定外の場所にまで状況をエスカレートさせられるかどうかが勝負になる。

 

思わぬ方向へ連れていってくれるのか、あるいは思わぬ飛距離を叩き出すのか。4分のあいだにそのどちらかへ観客を連れていかなければならないというのは、至極難しいことなのだなと改めて痛感した。