『キングオブコント2016』感想~「縦に掘り下げる」笑いと「横に展開させる」笑い、それぞれの妙味~
コントには、大きく分けてネタを「縦方向に掘り進める」型と「横方向に展開させる」型の2つがあるような気がする。いやコントに限らず、映画であれ漫画であれ文学であれ、そういう選択肢は常にある。
たとえば面白いワンフレーズを思いついたときに、それを良きタイミングでかぶせたり、表現をさらにエスカレートさせることで笑いを取っていくのか、それともそのフレーズを徐々に変形させ、あらぬ方向へと展開させながら意外性の笑いを生み出していくのか。
前者=「縦型」の典型は昨年のロッチの試着室ネタであり、後者=「横型」の典型はかもめんたるのネタに多く見られる。
もちろんその組み合わせというのもあって、縦に掘ったり横に広げたりしながら進んでいくのが理想形なのかもしれないが、しかしそこには「時間」という大敵が立ちはだかる。
今回の『キングオブコント2016』を観て改めて思ったのは、「4分間」という制限時間の難しさだった。もちろん6分なら6分の難しさがあり、15分には15分の難しさがある。それはわかっているのだが、「4分」という時間はどうやら、縦に掘る、つまりワンアイデアに頼ってかぶせて最後まで押し通すには長すぎ、一方で話を横へ展開させ広げていくには短すぎる。
いやむしろ難しい枠組みだからこそ、ちゃんとそれぞれの実力差が浮き彫りになる、ということでもあるのだが。縦でも横でも構わないが、どの方向にしろ「4分」という厳しい制限時間の中で、なにかしらの「飛躍」が求められている。
それでは以下、登場順にネタの感想を。
【しずる】
刑事2人が犯行現場へ突入。しかしその直前に、犯人がすでに捕まっていると知らされる。しかしなぜか現場突入プレイを続行する2人。
「犯行現場に犯人がいない」というコントの仕掛けが早いぶん、後半まで緊張感を持たせるのが難しい。
ベタの裏をかいた設定が枠組みとしてきっちり機能しているぶん、定番の逆をついたボケを安定して積み重ねていくことができるが、同時にその安定した場所からはみ出すのが困難にもなる。
お約束でもその真逆でもなく、最終的には第3の方向にまで行ってほしかったが、そうなると時間が足りない。
【ラブレターズ】
溜口の歌唱力を生かした歌ネタでありながら、それが塚本演じる高校球児のストーリー説明になっているという、ハイブリッドなスタイル。
ただ、歌の分量が多く、歌詞も替え歌というほど原曲を生かして遊ぶわけではないため、物語を説明する時間がかなり続く。
それゆえボケまでのストロークが長く、さらにはボケが野球好きでないとピンと来ないものであったため、苦戦を強いられることになった。
「スリーバント失敗」というのが選手にどれだけのダメージをもたらすか、僕は野球少年だったのでもちろんわかるが、一部のファンを除けば昨今の野球離れはかなり進んでいるようだから、たぶんわからない観客も多かったのではないか。
【かもめんたる】
1本目の遠距離恋愛も、2本目のヒッチハイクも、中盤で狂気性が露わになり、最終的には怖がらせて終わるという展開。
その中に、1本目の花を贈るゼスチャーであったり、2本目の「冗談どんぶり」というフレーズであったり、定型を縦にかぶせていく方法も入れ込んでいる。しかしそこがむしろあまり機能せず、横方向への展開を邪魔しているようにも思えた。
【かまいたち】
1本目はただ「首が下がる」というだけのマジックの繰り返しで、典型的な「縦に掘り下げる」系のネタと言っていいと思う。何度も繰り返されるうちに、いつの間にかそれを「もっと、もっと」と期待してしまうという意味でも、昨年のロッチの試着室ネタに近い感触。
横方向への展開には色気を見せず、これ一発で勝負してやろうという蛮勇がまた笑いを誘う。シンプルでありソリッド。
2本目はホームルームで給食費の盗難を問いただすという定番設定だが、犯人が自白癖のある生徒であるがために様相は一変。おかげで彼の壊れた因果律に巻き込まれ、まともなはずの教師が混乱を来すという見事な転倒が起こる。
最後にもうひとつ驚きが欲しかったが、ひとりの狂った価値観が全体をひっくり返す様は痛快ですらあった。
【ななまがり】
「茄子持ち上げるときだけ左利きだよ」という不条理なフレーズが頭の中を巡り巡って悪戯をするという、説明しても何が何だかわからない設定。
脳内の思考回路を具現化する手法は面白いが、現実と狂気が両極端で、その間の曖昧で一番「おいしい部分」が出てこないのがどうにももどかしい。
「他人が用を足しているトイレのドアを開けちゃった」というだけのことが「トイレの個室に3人いる」異様な状況を呼び込み、さらに「誕生日サプライズ」へとぐるぐる展開していく。
速度も密度もある圧倒的な展開力で、完成度は随一。
2本目は病院での余命宣告から、その余命の驚くべき短さをどう使うかというある種の大喜利的展開。こちらも次々と展開して観る者を飽きさせないが、1本目に比べるとやや枠内に収まった印象ではあった。
彼らの場合、どうしても斉藤の派手な演技に目が行きがちで、たしかにそれが世界観への入口として重要な機能を果たしているのは間違いない。
しかしその根底を支えているのは、このアクロバティックな高速展開を可能にしているシナリオのクオリティであると思う。
【だーりんず】
結婚式前日の父子の会話。
父の告白により発覚した複雑な父子関係よりも、父親が童貞であるのかが気になってしょうがないという一点で話が進む。気になるポイントもやや強度が足りず、特に展開もないためあまり印象に残らなかった。
1本目は、カツアゲした相手が打ち出の小槌。小銭で行けるとこまで押しつつも、後半は小銭→小判→巨大な石のお金と、飽きさせない展開がしっかり用意されている。
2本目は演劇の本読み練習。こちらも後半には言葉遊び的な展開が少し用意されているが、ここはちょっと蛇足だったような気も。
【ジグザグジギー】
箸で蠅を捕まえる達人が蠅を捕まえ続け、もう1人がそれにツッコミ続けるというシンプルな内容。
これも典型的な「縦型」のネタだが、「箸で蠅を捕まえる」という第1インパクトを終始越えられなかった印象。
【ライス】
1本目は、銃を突きつけられているほうが偉そうな指示を出しまくるという逆転現象。
これも定番を裏返す形だが、要求をエスカレートさせていくさじ加減が巧妙で、徐々に引き込まれた。ただし、引き込まれるまでに結構な時間がかかったため、前半はやや退屈だった。
2本目は、喫茶店の客とウエイターの間に起きるトラブル。こちらも良くある設定かと思いきや、水をこぼされたのではなく単なる尿失禁だったことが明らかになり、状況は一気にねじれてくる。
そのねじれ状態が絶妙だったが、失禁の発覚という最大の驚きが結構前半にあったため、やや尻すぼみの印象も。
個人的には、ジャングルポケットが一番面白かったと思うが、2本目より1本目のほうが良かったため、採点上はやや不利な状況であったのかもしれない。一方で優勝したライスのネタには、観る側が面白さを自ら探す余白のようなものがあり、そこは特に現行審査員に玄人受けする部分もあったのではないか。