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『JUNK おぎやはぎのメガネびいき』2012/6/14放送回~チャーハンの上で空転するエロス~

ためになる新書が売れ、実用的な情報番組が求められ、誰もがTwitterで自分の役に立つ情報をかき集め、さらにはご親切にもそんなお役立ち情報をリツイートして拡散までしてくれる今の世の中、ここまで役に立たないことしかやってない番組が存在することの奇跡に心から感謝したい。役に立つことなんてネットで調べりゃいいよ。あと『ためしてガッテン』とか観るなりして。あの番組は結構よく観る。録画して。早送りで。

おぎやはぎのメガネびいき』、今回のスペシャルウィークの企画は、「エロとチャーハンの融合」。大上段だか最下段だか良くわからない、もうお題目の時点で上がりが読めないこと必至の無茶ぶり企画だが、その読めなさこそが深夜ラジオ最大の武器でもある。

そもそもが、「最近の矢作がチャーハン作りにハマッている」というだけの突発的動機から出発し、「それだけでは数字が取れないから」という理由でエロをなんとかぶっ込もうということで決まった企画である。適当にもほどがある。

企画の中心となるゲストは、この(特に何もない)タイミングで中華料理人・金萬福。矢作が金萬福にチャーハン作りを教わるという設定はいかにも役に立ちそうな枠組みだが、いきなりの大問題は、ゲストとして登場したこの金萬福が、ほとんど何を言ってるのかわからない! この人、もう何十年も日本にいるはずなのに、日本語がまったく上達していないというミラクル。あえて巧妙にわかりづらくしてあるような、トリッキーな変拍子の日本語が炸裂。

それでも金さんの料理への情熱は凄いから、とにかく一生懸命説明してはくれるのだが、ほとんどの言葉を小木が訊き返さなければならない状態で話は遅々として前に進まず、この滞り加減がもうすでに充分面白い。「必死に漕いでるのになかなか進まない」という、完全にコメディ的な「空転」状況が早くも完成。ただ一生懸命なだけでもただ遅れているだけでも駄目で、その二つが両立しないと「空転」は起こらないのだが、言葉の伝わらなさがちょうど前進への意志を上手くから回りさせてくれる方向に機能。

しかし問題はそこにどうエロを足すのかという部分で、もちろんおっさんの金萬福にエロスは微塵もない。

と、ここから「安易な足し算をする」のがおぎやはぎの真骨頂で、前回のスペシャルウィークでも、森山直太朗とスギちゃんを素直に足すことで想定外の感動を生み出し話題を呼んだ。そうやって「いくらなんでもそれは単純すぎるでしょ」というそのまんまの足し算をやった結果、それが下手にひねるよりもよっぽど面白くなるというのが彼らの凄さでありセンスである。と同時に、そんな(いい意味で)短絡的な足し算を企画として通してしまうスタッフの勇気も、笑いには必要不可欠な要素だと改めて思い知らされる。

まあ結果的には、単に金萬福と矢作がチャーハンを作っている最中に、この番組ではお馴染みのカズコさん(通称ババア)のあえぎ声を無闇に乗せるというだけの代物なのだが、ここもやっぱり金萬福が一生懸命チャーハンを作り続けているのが妙に面白く、その割にはあとで訊くと、「あの声の女の人とってもセクシーね」というようなことを言って実はしっかり聴いていたのがわかるあたりも、笑いとして味わい深いところ。

他にも、リスナーの一人を六本木に派遣して「チャーハンをエロく食べそうな女をスカウトしてこい」と命じたものの、あまりに弱気すぎて道ゆく女性たちに完全に無視されたり、「ラジオは音しか聞こえないから長澤まさみかと思うかもしれない」とそそのかして金さんにチャーハンをあえぎ食いさせたり、とはいえ金さんの作ったチャーハンはやっぱり抜群に美味しかったりと、何がいいんだか悪いんだか、どこまでが想定内でどこからが想定外なのかわからない展開の連続で、リスナーはただもう必死に状況についていくしかない。

しかしそのギリギリの状況でこの動き続ける状況についていくというのが何よりも面白く、こういう番組を聴くと、受け手のペースに合わせて作られた親切な番組が退屈でバカバカしくなる。やはりどのジャンルでも、送り手は受け手の一歩先を常に行っていなければならないし、送り手さえわからないような事態が起こらないとコンテンツは本当に面白くはならない。

計算通りの結果に観客を落とし込むのではなく、いい意味で想定外の事態が生まれやすい状況をどう作っていくのかというのが作り手の勝負どころなのだと、このくだらなさの極地の中でこそ改めて痛感した。