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『IPPONグランプリ(第8回)』2012/11/17放送回~王者精彩を欠く多様性の季節~

大喜利の祭典も8回目ということで、良い意味でも悪い意味でも、だいぶ笑いの基準がわかりにくくなってきた。

M-1』にしろ『キングオブコント』にしろ『すべらない話』にしろ、回を重ねていくと軸がどんどんブレるというか増えていって判定が難しくなるものだが、それを「バリエーションの増加」としてプラスに捉えるか、「基準に納得がいかん」と幻滅してみせるか。

基本的に何かの大会が回を重ねていく過程においては、そこに新たな幅を出せる人材をどの段階でどれくらい投入するか、そしてそのブレた軸を基準値に戻せるコアな人材をどの程度キープするか、という制作サイドのバランス取りが結構重要になってくる。それでいうと今回は、初期の基準を作ってきた優勝経験者たち(バカリズム千原ジュニアバナナマン設楽)がちょっと割を食った印象だった。

ただ、それが必ずしも悪いことなのかというと、ちょっと難しい。実際、この三人は普段に比べれば精彩を欠いているように見えたが、それが絶対的なものなのか相対的にそう感じられただけなのか。

今回初出場のラインナップを見ると、明らかに「スベり枠」(前回のノブコブ吉村に続き)のカンニング竹山と、言葉の魔術師とはいえフット後藤の二人は、やはりツッコミであって大喜利には向いていないということが証明される結果に。そしてスカウト枠のもう中学生は、、お題からかけ離れたところで面白い答えになる場合はあるのだが、総じてお題理解度が低いと感じられる場面が大半で、ちゃんと質問に答えようとすると意外と真面目すぎて普通になってしまうというシーンが、大喜利でもフリートークでも多く見られた。

以上の初登場三者は、点数的には正直大勢にはあまり影響がなかった。ただ、それとは別のくくりで、ホリケンとロバート秋山ともう中という「トリッキー三銃士」が全体の基準を大いに揺さぶったのは間違いない。いや、視聴者や客席や審査する芸人の感覚が揺さぶられたというよりは、バカリズム千原ジュニアバナナマン設楽という優勝経験者たちがすっかり揺さぶられてしまった感じで、実際にいつもより守りの姿勢というか、スケールの小さい答えが多かった気がする。

トリッキーな三人に対して「スケール感で勝てない」という判断は、傾向と対策として非常に正しいと思うし、それこそが今のテレビで求められている「空気を読む能力」であって、だからこそこの三人はテレビで売れているのだということを逆説的に証明してもいる。ただ、これはサッカーでもなんでもそうなのだが、相手のスタイルを意識したうえでの「傾向と対策=リアクション」としての戦術は、本来の魅力を半減させてしまうことが多い。

今回特に印象に残ったのは、「キャラクターとスケール感」の秋山、世界観を丸ごと提示するがゆえに当たり外れの大きい(しかし不思議とアベレージは高い)又吉、「リアリティの権化」としてのチュートリアル徳井あたりで、いずれも方向性が明確だったぶん、バカリズム千原ジュニアバナナマン設楽の三人は器用貧乏に見えてしまったというのもある。ただ、やっぱり普通に不調だったという気もするし、もちろんお題との相性というのも毎度大きい。

そういえば松本チェアマンが番組冒頭に、「東野幸治にオファーを出したが逃げられた」と言っていたが、オファーを出すなら東野よりもやっぱり板尾創路でしょう。あのお方ならば「空気を読む」どころか、まっさらな真空状態で戦うことだろう。