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2021/7/21(水)のラジオ聴取日記~太田光の誠実~

水曜ラジオ

【聴いた番組】

『JUNK 爆笑問題カーボーイ』(TBSラジオ

『#むかいの喋り方』(CBCラジオ

アルコ&ピース D.C.GARAGE』(TBSラジオ

爆笑問題カーボーイ』では、太田光が『サンデージャポン』で披露した持論に対するあらゆる反論を引き受ける形で、改めて小山田圭吾問題について語った。実に1時間20分に渡る長広舌である。

これは単純な対立構造で捉えれば、「反論に対する反論」に見えるかもしれない。しかし実際のところそうでないのは、音源を聴けば明らかだ。ここでの太田光のスタンスは、何が何でも持論を通そうという強硬なものではなく、むしろこの問題についてきちんと掘り下げて一緒に考えようという、すべての人に寄り添ったものである。

彼の目的はおそらく、議論を閉じる方向ではなく、開かれた方向へと導くことだろう。そこに僕は太田光の誠実さを感じる。もちろん彼には自分の意見というものがたしかにあるが、だからといって何者をもつま弾きにはしていない。民主主義の本質というのは、単なる多数決ではなく少数意見の尊重にこそあるということを、彼はとても重要視しているように見える。

彼はあらゆる層が一緒くたにされている問題を徹底的に切り分けて、ひとつひとつの論点に対して徹底的に是々非々の姿勢でアプローチしてゆく。これは「信者」と「アンチ」に大きく二分されがちな現代SNS上の大雑把な議論に、もっとも欠けているスタンスであると思う。問題箇所が不明瞭なまま全体を悪と見なして一刀のもとに斬り捨ててしまうような言説は、暴力にほかならない。

その具体的な内容に関しては、ぜひ番組を聴いてみてほしい。そこにはネット記事では拾いきれない息づかいやニュアンスが間違いなくあり、もっと言えば太田光が言葉を紡ぐ際の切実な「迷い」が見えるはずだから。

「こう言うと大袈裟かぁ~」「なんていうのかな……」「言い切れてるかどうかわかんないけど……」「また興奮しすぎちゃってるかなぁ」

発言の端々にぶら下がるそれら逡巡を示す言葉からは、常に自分の発する言葉を厳しく見つめ、ためらったっり迷ったりしながら、なんとかふさわしい言葉を丁寧に選び抜こうという彼の謙虚な姿勢が見て取れる。

だがこの迷いは、けっして知識不足から来るものでも、単なる優柔不断から来るものでもない。むしろ知れば知るほどわからないことが増えるというのが物事の本質であり、無知こそが安易な断定を誘発する。わからないことをわかると断言できる輩は、詐欺師の類である。

つまりこの迷いの吐露こそが、彼が問題に正面から向き合っていることを示す証拠であり、様々な意見に真摯に耳を傾け多角的に考えなければ、こうして迷うことはない。

言葉で人に考えを伝えるには、「言葉で真意はなかなか伝わらない」というある種絶望的な前提を受け容れる必要があって、だからこそ言葉の力を信じている人ほど、それを丁寧に扱う人ほど言葉に迷う。

誰もが人の発言に白か黒かの断定を求め、多くの記事はプロセスを省略して断定的に書かれる。だがそうやって迷いを失った言葉が角を立て、人を極端な意見へと走らせる。

だからこうやって誠実に迷っている言葉は、断片ではなく丸ごと受け止めてこそ意味がある。もちろんそれが難しいことはわかっているが、できるだけ事前に賛否を決めずにフラットな状態で。

この問題に限らず、ラジオにおける語りの力、ひいては言葉の力について改めて考えさせられる放送となった。