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2016夏ドラマレビュー『侠飯~おとこめし~』/物語の骨太な軸と繊細なディテールが織りなす、文字通り「おとこめし」な世界

侠飯

とにかくいちいち面白いドラマである。細部の緩い作品をよく「詰めが甘い」というが、それでいうと「詰めが辛い」というべきなのか「詰めが無糖」とでもいうべきなのか? せっかくなので「詰めが旨い」と言いたい。

「またテレ東深夜にお得意の飯テロドラマか」などと侮ってはいけない。たしかに登場する飯はとても旨そうに見えるし、料理の小技や豆知識も目からウロコで役に立つ。しかしこのドラマの中心には、シンプルで骨太な、それでいて深味を感じさせる、まさしく「おとこめし」的な芯がある。

だからといって、単に味の濃い大雑把なストーリーだと早合点するのは、「おとこめし」の本質を知らぬ味オンチの所業である。僕もたいして味など知らないが、このドラマを観れば、「おとこめし」の本質はその大胆さと同じくらいその繊細さにもあるとわかる。いやむしろ、一挙手一投足に繊細さがなければ大胆には振る舞えない、とまで言うべきかもしれない。それは独自の任侠道を生きる主人公・柳刃竜一(生瀬勝久)の神経質なキャラクターにも通じている。

つまりこのドラマの芯の強さは、主人公の「キャラクター」と「ストーリー」、そしてグルメという「題材」の三本柱が、「おとこめし」というキーワードのもと見事に収斂されている、という点にある。それも譲りあいや帳尻あわせではなく、三つの要素がきっちりぶつかりあった上で協力関係を築いている、といった構図で。

そういう意味では、非常にタイトでソリッドな作品だと言えるかもしれない。しかしだからといって小さくまとまっている印象がないのは、やはり役者陣や脚本、演出らスタッフの細部へのこだわりが、ところどころで薬味あるいは隠し味的に効いているからだろう。

細部といえば、コメディには欠かせない「あるある」設定の按配も絶妙だ。たとえばしばしば登場する二人組の警官。いつも行動を共にしている警官二人が、制服姿のままスーパーをうろついているという状況設定の、珍妙なようでいて意外と日常的に見かけなくもないという、ジャスト境界線上の「あるある」さ加減。この二人組の警官に、芸人コンビTKOの二人をそのまま持ってきているというのもニヤリとするポイントだ。

もちろん、生瀬勝久の凄味とその裏に垣間見える隠し味としてのチャーム、そして柄本時生のリアルなびびりっぷりとのコントラストも絶妙である。さらにはエンディングロールのバックに流れる映像にまで気が利いていて、隅々に至るまで、どうやら万事ぬかりがない。作品の空気感というのは、案外こういうところで決まったりもする。

さらにこのドラマには、「任侠」×「グルメ」の他にもうひとつ、柳刃組長らの居候先であり就職活動に悩む大学生・若水良太(柄本時生)の「自分探し」という側面がある。つまりこのドラマはシンプルに見えて、こうしてひとつひとつの要素に分解してみると、少なくない素材が複雑に絡み合うことで出来あがっている。手の込んだプロセスを表面に見せないというのも、まさに「おとこめし」の流儀かもしれない。

しかしこれだけおとこおとこ言っていると、完全に男にしかわからないドラマだと思われても不思議はない。たしかに設定上、男のほうが共感しやすい内容ではあるだろう。

が、ちょっと視点を変えてみると、実はこの作品、女性にとって絶好の「婚活力養成ドラマ」なんじゃないかと思う。「男心を掴むにはまず胃袋を掴め」とよく言われるが、このドラマにはまさに、「男の胃袋を掴むコツ」が具体的かつふんだんに盛り込まれているからだ。作り慣れないビーフストロガノフよりも、「焦がし醤油の大蒜炒飯」のほうが、男心を掴む握力は圧倒的に強い。

もちろんそんな野心などなくとも、自分で作って食べてみたくなるというだけで充分だ。そしてグルメ云々以前に、本作は純粋にドラマとして思いきり楽しめるように作られている。やはりストーリーこそがドラマの核、つまり料理における白米であり、白米を上手く炊けなければ「おとこめし」は成立しない。大胆かつ繊細、これはまさに文字通り、「おとこめし」なドラマである。

『侠飯~おとこめし~』(テレビ東京/金曜24:12~/主演:生瀬勝久

http://www.tv-tokyo.co.jp/otokomeshi/