いま聴くべきお笑い芸人ラジオ~おすすめ全国版2020~
ラジコプレミアムの恩恵によって、全国各地のラジオが聴けるようになった。その昔、ループアンテナを持って部屋を練り歩きながら、なんとか遠くの電波をキャッチできないものかと悪戦苦闘しては隣国の怪電波を拾っていた僕のようなラジオ好き、お笑い好きには夢のような時代の到来である。
にもかかわらず、いざ聴くべきラジオ番組を探そうとなると、なかなか有益な情報がまとまっている場所がない。いやあるにはあるのだが、特にお笑い好きでもラジオ好きでもない人がアクセス稼ぎに書いたような味気ないものばかりで、オフィシャルサイトにある番組説明文を単に流用したようなレベルのものが多い。
たとえば「芸人 ラジオ おすすめ」で検索してみると、その魂の抜けた感じがよくわかると思う。
検索では生きた感想というものになかなか出あえず、生きた感想がある場所はファンの内輪であることが多い。しかしそのためには番組名のハッシュタグをつけて検索する必要があって、そもそも番組名を知らない人はそこへすらたどり着くことができない。
そこをなんとかしてようやくたどり着いてみたところで、そこで交わされる感想は、毎回聴いていることを前提とする省略を含んでいることが多く、何が面白いのかを直感的に理解することが難しかったりする。
ラジオには昔から秘密基地のようなところがあって、そもそも内輪で盛り上がりがちなメディアであるから、どうしても入口が見つけづらい。しかしこれだけネットが普及した今となってさえ、入口にたどり着くことが難しいというのは、いったいどういうわけか。せっかくラジコプレミアムの普及によって、届けるチャンスは増えているというのに。
というわけで、文句ばかり言っていても仕方がない。とにかく全国のラジオ番組表と日々睨みあったうえで、芸人の名前があればとりあえず聴いてみて、なにかしらの手応えがあったら次も聴く、という地道な作業を繰り返す中で、僕が面白いと感じたラジオ番組をいくつか紹介してみようと思う。
といってもその作業は個人的に普段からやっていることなので、特にこれを書くためにわざわざ調べたわけではない。日々のルーティーンの賜物である。
わかりやすいように、現時点でのおすすめ順にランキングをつけていくが、あまりに有名なTBSのJUNK枠やその前の0時~1時枠、そしてニッポン放送のオールナイトニッポン枠等は、今さら紹介するまでもないと判断して外してある。たぶんここへたどり着く人は、そこらへんはすでにお試し済みだと思うので。けっしてそれらのほうが上だという意味ではない。
ちなみにランキングは、いま現在、すべての番組の最新音源が手元にあったら、どの順番で聴くかというのを念頭に置いて選んでみた。つまりいち早く聴きたい順ということになる。
1位『よなよな…月曜日(ダイアンのよなよな…)』(ABCラジオ/毎週月曜22:00~24:30)
東京進出後、徐々に、本当に徐々に勢力を拡大しているダイアンのラジオ。こう言われても嬉しくないかもしれないが、彼らの真骨頂は長尺のフリースペースを与えられるラジオにこそあると思っている。
この番組について、いつかここでちゃんと書かないとと思いつつ書かないできたのは、その魅力を書き言葉で伝えるのが本当に難しいと感じているから(さっそくの言い訳…)。
そしていざ番組を聴いてみても、一聴ではなかなか面白さがわかりづらいかもしれない。たとえば冒頭フリートークの入りは、いつもなんの変哲もない季節の話題だったりして、他の芸人ラジオに比べると立ち上がりは緩め。
コーナーネタは抜群に面白いが、関西芸人やダイアン二人の学生時代の同級生を中心とする内輪ネタも多く、「ギャロップ林」と言われてあの禿げ頭(『M-1』出場時、審査員の立川志らくに「禿げかたが面白くない」と言わしめた稀有な頭部)を即座に連想できなければ、すっかり置いてけぼりを喰らうことになる。
ちなみに先日の『M-1』で爪痕を残したおいでやすこがのおいでやす小田は、遥か昔より当番組では「気づいたら家にヌートリアが侵入していた人物」(実話)として知られている。
だが聴けば聴くほどに味が出るとはまさにこのこと。やがてフリートークの緩さは、そこから二人にスイッチが入ったときの中学生のような不毛なディスり合いを際立たせる要素に感じられ、コーナーでは今か今かといつものマニアックな登場人物の名を待ちわびるようになる。
つまりおそろしく遅効性の番組であり、ラジオへの入口を設定するなどとさんざん言っておきながら、そんなスルメ番組を1位に挙げるのもどうかと思うが、聴くほどに面白さが更新されてゆくという、積み上げ教科的な魅力こそラジオの妙でもあるからどうか許してほしい。
2位『問わず語りの神田伯山』(TBSラジオ/毎週金曜21:30~22:00/ラジオクラウドあり)
芸人ラジオのくくりに入れていいものかわからず反則気味かもしれないが、とにかく面白いのだから入れないわけにはいかない。いまをときめく講談師・神田伯山のひとり語り(笑い屋付き)。
とにかく言ってはいけない本音を言ってしまうという意味では、共演番組もある爆笑問題の太田光路線とも言えるが、どちらも立川談志が芸の出発点にあると聴いてさもありなんと腑に落ちる。
個人的には、聴いてきたラジオが『五木寛之の夜』と『テレフォン人生相談』であると聴いて信頼度がグッと増した。僕も聴いていたし後者はいまだに聴くが、伯山は本物のラジオっ子である。
誰彼構わず噛みつくその傍若無人なスタンスは時に炎上商法的でもあるが、炎上させた以上はきっちり相手のリングにも上がって自らケツを拭くあたりは潔く、彼の愛するプロレス的でもある。
とにかく嘘や忖度が嫌いで、そんな世の中に辟易している人は必聴。
アーカイブ放送がラジオクラウドで聴けるので、彼が徐々に知名度を上げて松之丞から伯山になってゆく出世魚のようなプロセスも楽しめる。
3位『コウテイの銀蛾・流電音(ギガ・ルデオ)』(MBSラジオ/毎週金曜20:00~20:56)
冒頭の自己紹介で嘘の名前を言い続けて16分。なぜそんなことをやるのかわからないが、わからなくても面白くなると感じたらやってしまえというコウテイイズムがいきなり炸裂する、いまもっとも勢いを感じる若手芸人ラジオ。
とにかく何が出てくるかわからない、どこが面白くなるかがわからない、異様にスリリングな番組。
悪く言えば「落ち着きがない」のひと言だが、むしろ落ち着いてたまるかという気概すら感じる。それは多くのベテラン芸人ラジオが時とともに失ってゆくものでもある。
この10月に始まったばかりの番組であり、まだ方向性が固まっていないぶん、新規リスナーには入りやすいというメリットもある。
いよいよ『ABC新人お笑いグランプリ』を獲って次は『M-1』制覇を目指す段階へと来ている稀代の曲者が放つトークのグルーヴは、四の五の言わずにいちはやく感じておくが吉。
4位『ロバートpresents聴くコント番組~秋山第一ビルヂング~』(Spotifyポッドキャスト/毎週月曜更新)
開始当初の『エレ片のコント太郎』がそうであったように、ラジオコントにはテレビのコントとはまた違った独特の魅力と可能性がある。
生粋のコント師であるロバートがビルのオーナーとなり、テナント各店で繰り広げられる店員たち(他の芸人ら)の会話を盗聴するという、丸ごとコント設定で繰り広げられる純度100%のラジオコント番組。
シソンヌ、チョコプラ、空気階段など、盗聴されるのは実力者揃いの豪華な布陣。それだけでなく、その前後で繰り広げられるロバート三人による即興性の高い会話劇もしっかり面白い。
Spotify内のポッドキャストでのみ聴けるという実験的形態を取っている番組なので、わざわざアプリをダウンロードしたりする必要があるが、過去回もすべてそちらから聴けるのはありがたい。
5位『さらば青春の光がTaダ、Baカ、Saワギ』(TBSラジオ/毎週土曜深夜3:00~3:30)
ラジオのほうがテレビよりも剥き出しにやれる(主に下ネタ方面において)という意味では、もっともラジオの利点を引き出している番組。
パーソナリティのセフレを公開募集して競わせるなど、とにかくハプニング性を孕んだ企画が遠慮会釈なく繰り広げられ、他のラジオとは一線を画す下世話な領域に堂々と踏み込んでいる。
しかし一方でコーナーメールのレベルも異様に高く、そこはさすがネタに定評のあるコンビについたリスナーだなと感じ入ることもしばしば。
中でも、かの有名な『サラリーマン川柳』に便乗した企画『さらば川柳の光』に投稿されたリスナー川柳のレベルが、軒並み軽々と本家超えを果たしているのが誰の目にも明らかであるのは痛快極まりない。
そして『匂わせ純猥談』に送られるネタの完成度はJUNK勢をも凌ぐレベル。
全ラジオ中、真面目から悪ふざけまでの振れ幅はここが最大値かもしれない。
6位『#むかいの喋り方』(CBCラジオ/毎週火曜22:00~24:30)
『有吉の壁』における活躍をはじめ、2020年はパンサーの実力が証明された年だった。
そんなトリオの中でも、イケメンだがお笑い的には最も地味な向井がひとりで喋り続けるラジオ。そう聴いて食指が動かない人も少なくないと思うが、向井は生粋のお笑いマニアでありラジオマニアでもある。
そんな彼のラジオ愛はトークの端々に感じられるが、ここで注目すべきは向井の語り口に表れる客観性と分析能力の高さ。
ドラマや映画をはじめ、エンタメを語る際の向井の視点は制作者と批評家と観客の視点を全方位的に兼ね備えており、実に多角的にその魅力が語られる。
まさかトリオ編成の中にひとり語りで2時間半飽きさせない逸材がいたとは、と驚くこと請け合いである。
ちなみにニッポン放送では『パンサー向井のチャリで30分』(毎週月曜19:10~19:40)という番組も始まっており、こちらは芸人ゲストとの熱いお笑い談義と、スタッフのラジオに対する妙なこだわりがゲストを混乱させる様が面白い。
7位『小籔・笑い飯の土020』(MBSラジオ/毎月月イチ金曜24:30~26:00)
のちに様々な番組で活躍することになる素人を次々と発掘した伝説の番組『ゴー傑P』のフォーメーションを、月イチで復活させた番組。
毎度個性派ゲストとのスリリングなバトルが繰り広げられた『ゴー傑P』に比べると企画色は薄く、緩やかな空気が流れているが、時に『ゴー傑P』時代のゲストが来るとトークは一気に熱を帯びる。
どこからでも即興コントに入れる三人のラジオなので、スイッチが入るとボケが止まらず、かぶせに次ぐかぶせでしつこさが止まらずそれが癖になる。
一方でスイッチが入らないときは入らないまま終わることもあるため、一回だけで判断せず何回か聴いてみることをおすすめする。
8位『中川家 ザ・ラジオショー』(ニッポン放送/毎週金曜13:00~15:30)
前番組『DAYS』からの唯一の生き残りとしてこの中川家が選ばれたのは、ニッポン放送の英断だと思う。
元々即興性の高いコンビなのでトーク力に疑いはなく、どんな話題でもコンスタントに笑いにつなげることができるのはベテランの技というべきか。
とはいえ、さすがに当初はガチガチの台本喋りだった料理コーナーの先生のトーク力までをも、やり取りを重ねる中でいつのまにかすっかり引き出してしまっているその空気作りの妙には驚く。
『DAYS』時代から続く東島アナとのコンビネーションも絶妙で、ここではすでにほぼトリオとしてのスタイルが完成している。
昼のラジオだがネタコーナーもあり、「ラジオCMを作ろう!」のコーナーでは、中川家の二人による即興コントの制作過程が垣間見えて興味深い。
9位『アッパレやってまーす! 水曜日』[ケンドーコバヤシ、アンガールズ、柏木由紀(AKB48)](MBSラジオ/毎週水曜22:00~23:30)
今年はパーソナリティのひとりが番組中に突如降板宣言をするという、前代未聞の大惨事に見舞われたことで少し話題になった番組だが、ひとり欠けても面白さが目減りすることはなく、むしろ結束が強まった印象。
この『アッパレ』枠では、パーソナリティのさまざまな組み合わせが試みられているが、中でもここで実現したケンドーコバヤシ×アンガールズというありそうでなかった取り合わせの相性の良さは、ひとつの大きな発見だった。
三人とリスナーの手により柏木由紀の毒と天然っぷりが引き出される場面も多く、それぞれ単体ではなし得ない有機的なケミストリーが生まれている。
10位『宮下草薙の15分』(文化放送/毎週金曜26:45~27:00/ポッドキャストあり)
『しくじり先生』でこの番組が取り上げられ、ラジオ慣れしてない二人のあがきっぷりが少し話題になったが、個人的にはここから特に上手くなる必要などなく、模索し続ける姿こそが面白いと感じている。
ラジオには、ラジオ慣れしていない時期に特有の未完成な面白さというのもあって、たとえその日は話がオチまでいけなくとも、それはそれで「次こそオチまできっちりたどり着けるのか?」という新たな楽しみが増えたりもする。そういう意味では、実に懐の深いメディアだと思う。
15分では正直もの足りないが、この番組以前に放送された彼らの『オールナイトニッポン0』は正直イマイチだったので、長尺が向いていないということなのか、あるいはこの経験を経ての再挑戦ならばいけるのかの判断は難しいかもしれない。しかしこのクオリティならば、30分~1時間くらいは是非やってほしいところではある。