ドラマレビュー『危険なビーナス』~自信満々に外した我が迷推理を添えて~
正直、一話目の時点ではセレブすぎる設定に現実味がなさすぎて、ここまでハマるとは思っていなかった。そういう意味では、これまで積み上げてきた『日曜劇場』クオリティへの信頼が見続ける担保になった。
序盤は複雑な登場人物たちの人間関係を把握するのが大変で、それで挫折してしまった人もいるかもしれない。先妻の子だの後妻の子だの愛人の子だの養子だのと、とにかく入り組んでいるうえ各所に利害/敵対関係が生じているため、公式HPの人物相関図にはだいぶお世話になった。
しかし最終話を観終えた今となっては、だからこそ面白かったと言える。なんというか、大河ドラマを全話観届けたような充実感がある。そういえば大河ドラマの主役になるような戦国時代の大名家においては、このように入り組んだ血縁関係や養子縁組、それに伴う遺産(家督)相続問題は日常茶飯事であるから、この感想もあながち的外れではないだろう。
だが一方で、個人的には盛大に的を外したのだった。何をって、ミステリー作品において一番大事な真犯人の推理を、である。しかも僕は最終話手前の九話目終了時点で思いついたこの推理に自信がありすぎて、最終話放送前にどこかで発表してやりたくてドヤ顔でウズウズしていたくらいだ。今となっては、本当にそんなことをしなくて良かったと胸をなで下ろしている。
というようなことをわざわざここに書かなければ、推理をはずしたこともバレずに済んだわけだが、そんなところで格好つけても仕方ない。むしろ自分では気に入っていた迷推理をここに開陳することで、供養してやりたい気持ちになってきた。
てなわけで、以降はネタバレも含むかもしれないし、ドラマを観ていない人にはさっぱりわからない内容になるかもしれない。ちなみに原作は読んでいないが、ネット上の評判を調べてみた限りでは、実は原作のほうの犯人を当てていた、というような奇跡もどうやらないらしい。我ながら天晴れな外しっぷりである。以下、僕がせっせと拵えた迷推理をお届けする。
さて、九話を終えた時点で、ズバリ、僕は犯人を主人公が務めている池田動物病院の院長であると確信した。なぜならば彼こそが、この物語のテーマに大きく関わっている人物であるからだ。
この作品のテーマといえば、表向きには「大金持ち一族の遺産相続問題」ということになるだろう。だが物語の中盤で、主人公である伯朗の義理の父である康治が、研究のために動物実験を繰り返していたという話がにわかに出てくる。そしてその映像を目撃した伯朗は大きな精神的ショックを受ける。
そういえば伯朗は動物病院の院長代理を務めている。つまり初期設定に「動物」という要素が含まれている。これは重要なテーマであるに違いない。そうでなければ、わざわざ主人公の職業を「獣医」に設定する必要がないではないか。伯朗は父とは反対に、動物を救済する立場を選んだ。主要なテーマには対比がつきもので、ここでは親子間に綺麗な対比が生まれている。
だとすれば、本作のテーマは遺産相続に見せかけて、実はこの「動物愛護」こそが真のテーマなのではないか。原作者の東野圭吾はそれを伝えるために、この作品を書いたのではないか。
そう仮定した瞬間から、たまにしか出てこない動物病院の池田院長が、とても怪しい人物に見えてくるのを感じた。
まず何よりも怪しいのは、院長が伯朗に病院を任せているにもかかわらず、時々深夜に病院を訪れて動物たちの面倒を見ているという行動である。
伯朗もこれには気づいていて、直接院長にお礼も言っている。だがそんなに動物たちの様子が気になるのならば、自分が院長に復帰すれば良いだけの話ではないか。なのになぜそれを人に任せて、わざわざ夜中にだけ見にくるのか。異常な動物愛とも取れるし、何かしら伯朗に対して思うところがあるのかとも取れる行動である。
そして院長は伯朗に自分の養子になることを提案し、彼を看護師の蔭山と結婚させたがっている。伯朗を病院の跡継ぎにして、なおかつ看護師を嫁にもらえば動物病院もこの先安泰だと考えているのだろうが、伯朗は養子になるかどうかの答えを保留にしている。
つまり院長が願いを叶えるためには、何かしらの手を打つ必要がある状況であるということだ。それはかなり強引な「手」であるかもしれない。
さらに院長は、動物病院で楓に初めて遭遇した際に、楓が伯朗の兄の妻であるということを怪しむ旨の発言を伯朗にしている。そう、まるで犯人が潜入捜査官の匂いを嗅ぎつけたように。
それに院長はお洒落すぎる。ここまで来るとほとんどもう言いがかりだが、ハットをかぶった姿はなんとなく怪しげに見える。
そしてもうひとつ重要な要素は、院長も伯朗の義父である康治と同じ医者であるということである。人間の医者と動物の医者の違いはあれど、同じ医者である。
そう考えると、院長と康治は大学時代に同じ医学部の同級生だった、つまり旧知の仲であったのではないか。そして院長は康治から動物実験の話を訊き、何よりも動物を愛する彼は怒りに震えたのではないか。康治を許せなかったのではないか。だとすると、その妻である禎子も、康治の息子である明人も、そして康治の義理の息子である伯朗ですらも……。
と、ここまで考えた時点で、そういえば医者と獣医が友人関係ってよくあるんだろうか?とか、同じ医学部を出て獣医になる人っているのか?とか、わりと根本的な疑問がひっそり脳の片隅に湧き上がるのを感じながらも、「まあ、同じ医者だしな!」とそこはなんとなくスルーしつつ。
というわけで、真犯人は池田院長! 理由は、えーっと……お洒落すぎるから!
極私的な妄想珍推理をご清聴いただき、まことにありがとうございました。とにかく面白いドラマなので、まだ観てない人は観たほうがいいですよ、はい。
【日曜劇場『危険なビーナス』公式HP】