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喜怒哀楽を越えてほくそ笑む草彅剛の怪演が光る『嘘の戦争』~2017冬ドラマ初回レビュー~

嘘の戦争

「草彅剛・復讐シリーズ」第2弾と銘打ったこの『嘘の戦争』。「いつのまにシリーズに?」という疑問はさておき、その第1弾にあたる『銭の戦争』が素晴らしかったので今作も期待していたのだが、やはり初回から期待を裏切らない面白さ。このキャスト・スタッフが再集結した意義を強く感じさせるスタートを切った。

とはいえこのドラマには事前からいくらかの不安要素もあって、それは今作が「オリジナル脚本」であるという点。前作『銭の戦争』が韓国の大ヒットドラマのリメイクであったことを考えると、ドラマの土台となる原作の部分が抜けた状態であのクオリティを保てるのかどうか、という心配はあった。

そもそも「シリーズ」とはいっても、ストーリーにしろキャラクターにしろ、基本的に前作との関連性はなく、たとえば草彅剛と大杉漣の共演など、一部に共通点が観られる程度。ゆえにプロットの充実していた前作のクオリティを同レベルで引き継ぐ、というのはかなり難しいと思われたのだが、蓋を開けてみれば「主人公の復讐戦」というテーマの核心部分がきっちりと受け継がれ、早くも前作同様にめくるめく心理戦が展開されている。

しいて言えば、物語をタイトかつスピーディーに展開したいあまり、ややご都合主義的というか、今のところ人が狙い通りに動きすぎているのが少し気にはなる。だがそこは初回特有の「力み」でもあるだろうし、実際にその展開の「速さ」と「密度」は物語の駆動力向上に一定の効果を挙げている。

そして何よりも本作で魅力を放っているのは、いま最も「ほくそ笑む」表情が似合う俳優・草彅剛の食わせ者感あふれる演技である。今回彼が演じる一ノ瀬浩一という人物は、その心の奥底に感じられる芯の強さという意味においては、『銭の戦争』で彼が演じていた白石富生に通じる部分もある。しかしキャラクターとしてはむしろ、詐欺師という役柄も相まって、前作で渡部篤郎が演じていた赤松大介のほうに近い。

『銭の戦争』における渡部篤郎の、冷静さと狂気を共存させた演技はまさに「怪演」と呼ぶべきもので、作品をワンランク上へと押し上げる力を持っていたが、今作においてはまさにその役割を草彅剛の演技が担っている。

役者というのはある段階から、単なる見た目の格好良さを越えて、喜怒哀楽の入り交じった状態や、善悪が入り乱れる人間臭いキャラクターを演じるステージへと突入してゆく。

かつての松田優作がそうであったように、渡部篤郎はすでにその領域における第一人者だと個人的には捉えているが、そんな実力者との共演経験を経て、草彅剛もまた役者としてのネクストステージへと駆け上がっている。そんな気迫が画面を越えて伝わってくる。

そもそも「喜怒哀楽」なんてものは、単なる便宜上の分類でしかなくて、人間の感情は本来分類不可能なものだ。たとえば100%混じりっけのない「喜」という感情があるかといえば疑わしく、そこにちょっとだけ哀しみが混じっていることもあれば、どこかに怒りが混ざり込んでいることだってある。当然「喜怒哀楽」の四つ以外にも様々な感情があるし、まだ言葉になっていない感情だってきっとたくさん存在する。

もちろん「善悪」に関しても同様で、世の中の多くの事柄は、そのどちらかにキッパリと分類できるものではない。そういった便宜上の分類とは別の、不可分の領域、あるいは複数の感情がクロスオーバーして混沌としている領域というのがたしかにあって、作品の面白さを支えるリアリティというのは、そういった未知の領域を表現できるかどうかにかかっている。

そしてその領域へと達するにはまず、あらゆる既存の感情を疑ってかかることが必要で、そのためには自分自身をいったん突き放したうえで嗤うような、皮肉めいたユーモアが不可欠である。俳優・草彅剛にはそれが備わっているのだと思う。

彼の持つ冷めたユーモアの感覚は、長年バラエティで共演してきたタモリから受け継がれたものなのかもしれない……というのは僕のようないちタモリファンの掲げる理想論に過ぎないのかもしれなくて、実際のところ以前にも、『いいとも』最終回の際に披露された中居正広のスピーチに関して、ここにほぼ同じようなことを書いている。

【『笑っていいとも!グランドフィナーレ 感謝の超特大号』~模倣困難なタモリイズムの継承~】

http://arsenal4.blog65.fc2.com/blog-entry-269.html

と、なんでもかんでもタモリを通して考えてしまうのはタモリ本人にしても荷が重いかもしれないが、プライベートでもつきあいのある草彅剛がその背中から「表現における本質的な何か」を学んでいたとしてもなんら不思議はない。いずれにしろ草彅剛がいま、最も魅力的な役者の一人であることに変わりはない。

本作にはその他にも、『私 結婚できないんじゃなくて、しないんです』でキャラクターの幅をグッと広げてきた藤木直人や、『HOPE~期待ゼロの新入社員~』でプレーンな輝きを見せた山本美月、そしてもちろん前作に続きいぶし銀の存在感で作品に奥行きを加える大杉漣など、周囲の役者陣も魅力的なラインナップが揃う。

とりあえず、この時点で出せる要素を全力で詰め込んでみせた印象のある初回。そのぶん今後へのハードルが上がったとも言えるが、オリジナル脚本で前作に匹敵、あるいは凌駕することができるのか、役者陣の表現力とカンテレドラマ班の底力に期待しつつ観ていきたい、今期最注目作品である。

◆前作レビュー【俳優陣の名演怪演と半沢リベンジ型脚本が光る『銭の戦争』】

http://arsenal4.blog65.fc2.com/blog-entry-287.html