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『R-1ぐらんぷり2013』感想

まず最初に元も子もないことを言っておきたい。今回はロバート秋山が「体モノマネ」で出ていたら、圧勝していたであろうと。

いきなり話がそれたようだけども、実はこれこそが今回一番言いたいこと、そして言うべきことで、正直分析的な見方をするほどのネタはほとんどない低調な戦いだったと思う。『R-1』は毎年低調だと言われることが多いが、中でも今年は「キンタロー。vsスギちゃんの新旧一発屋対決」という話題性もさほどの山場にならず、いつも以上に「なぜこの人を決勝に残したんだろう」という運営サイドの選択ミスを強く感じさせた。

以下、登場順に。

《Aブロック》

岸学

ジャック・バウワーを捨てて臨んだこの大会、という触れ込みだが、むしろここに至るまでジャック・バウワーを捨てずに持ち歩いていたことに驚く。ジャック・バウワーのネタも特に面白かったことはないが、今回披露した「ダイエットマン」のネタも、クオリティ的にはほぼ変わらない印象。 ネタの内容は「デブあるある」+「モテないあるある」だが、その二つの要素があるあるとしてありがちなうえ、中身も単なるあるあるの範疇を越えず。 キャラも衣装も中途半端で特に方向性がなく、キャラ勝負にしろネタ勝負にしろ弱い。

三浦マイルド

一本目の「広島弁講座」は、ワードセンスというより顔芸と言い方のゴリ押しにより早い段階で飽きの来る内容で、結果取り残された前髪のインパクトだけが残った。しかし二本目の道路交通警備員西岡さんのネタは、あるあるというよりは悲壮感をユーモアで跳ね返すドキュメンタリーとして面白く、上っ面のあるあるネタよりは深みがあった。深みといっても、一般にはまったく不必要な深みなんだけど、ネタに個人の体験に基づいた具体性があるぶん、普遍的なあるあるから固有体験としての「ないない」の領域に一歩踏み込んでいて、その「ギリギリありそうでない」感じが観る側の想像力を刺激する。

二本目だけを評価するならば順当な優勝。一本目を含めると微妙。

ヤナギブソン

いかにも計算高さがプンプンと漂う円グラフネタ。それだけに、どう計算でなく見せるか、計算から外れた部分を見せるかという段階の勝負になるが、そこまでいかず計算内にすべてが小さく収まった感じ。後半ぶっ壊れてくれないと物足りない。こういうネタをよく構成力で評価する向きがあるが、後半枠組みを自ら破壊するところまで含めての構成力だろう。

プラスマイナス岩橋

いつもの衝動的言動を、無理矢理一本のネタにまとめたようなつぎはぎの即席感。バラエティ番組で突如やり始めるときのあの独特のクレイジー感が、ネタという枠組内でずいぶん窮屈そうだった。いつものノー・コントロールな感じが大好きだっただけに、ネタという型にはめること自体に無理があるのかなと。

《Bブロック》

ヒューマン中村

恒例のフリップネタだが、一本目は昨年ほどではなく、二本目は昨年レベルではあったが、やはりインパクトで負けたという印象。毎年クオリティで勝負しようというスタイルには好感が持てるが、発見を求める大会においてはどうしても不利になる。ネタの中に(というか本当はキャラクターに)道を踏み外しそうな危うさが出てくると、バカリズムのレベルに達するような気がするが、後から加える要素としてはそこが一番難しいとも思う。

三遊亭こうもり

いわゆる落語的な上手さ勝負になると、結局のところ誰もねづっちに勝てない。そのねづっちが現状ですでに勝ってない以上、上手さで勝負すること自体がすでに不毛だと改めて痛感させられた。

田上よしえ

古臭い演技っぽさで勝負してくるかと思いきや、今回はひとつひとつの芸能人ネタの精度にも安定感があり、勢いで誤魔化さないその姿勢はちょっと意外だった。ただ、内容的にはネタの羅列に終始してしまっていたので、何か強固な縦軸が欲しい。そういう意味で、繰り返されるヨネスケはちょっと効いていたが。

桂三度

やっぱりナベアツのほうが断然いい。短時間の落語で爆笑を取るのは難しいなぁと、改めて。

《Cブロック》

キンタロー。

すでに旬は過ぎ目新しさはない。となるとバリエーションが求められるが、やはり前田敦子以外のモノマネネタの精度が低いのが足を引っ張った。

【スギちゃん】

模索と挫折を繰り返しているニュースタイルではなく、ワイルド延命策のほうを選んできた。客席の反応でワイルドネタの仕分けをするという内容だが、その客の使い方から漂う強烈な営業臭に場がなごむ。しかし緊張感のある大会で、客席をなごませるのは審査員向けには逆効果。

アンドーひであき

「パントマイム+モノマネ」というスタイルには、少なくともこの大会においては斬新さがあり、その内実が「さほど似てないモノマネ」であったとしても、一本目は釘づけになったのも事実。だが有名人のモノマネを連発した一本目に比べると、二本目は明らかにネタ不足で、場つなぎ的な動きが多かった。

雷ジャクソン高本

自らの体験に基づく自衛官ネタは、本人が言うほど過激でも予想外でもなかった。三浦マイルドの二本目の「西岡さん」のネタと比べると、重要なのは言葉の精度だということが明確になる。